第3話
結奈ちゃんは水曜日、誕生日だった。
「え?!良いよ!
水曜日にお団子おごってもらったもん!」
学校の近所にはお団子屋さんがあって、そこのみたらし団子が結奈ちゃんは大好き。
「あんなのじゃプレゼントにならないから!」
結奈ちゃんは遠慮する。
「良いからっ!開けてっ!」
俺が言うと結奈ちゃんはゆっくり袋を開けた。
「……これ、カクが選んだの?」
「うん、俺が選んだ!」
……フクと一緒にね。
「どうでしょうか……?」
結奈ちゃんは俺があげた髪留めを袋から取り出して笑顔で髪をはさんだ。
「似合うかな?」
「似合うっ!」
結奈ちゃんはいつも素敵に髪をアップにしてる。だから、髪飾りにした。
「すっごい嬉しい」
笑顔の結奈ちゃんにホッとする。
「カク、センス良いね」
「そう?」
「うん。だって、すごい可愛いもん」
今までないくらい喜んでくれた。
恐るべし、フクのセンス……!選んだのは俺だけど!
映画はとても面白かった。
最近流行りの女優さんと俳優さんが軽快に話を進める笑いありの純愛ラブストーリー。
熱いラブシーンもなく俺達に合っていたと思う。
「面白かったねぇ」
そしていよいよ伊達先輩と桜先輩の作戦実行の時がせまる。
「結奈ちゃん。この後、なんだけど……」
外に出ようとしたその時。
「やっぱり雨、降ってきたねぇ」
結奈ちゃんが俺の持っていた鞄から、オレンジの折り畳み傘を取り出す。
「……ふってきた?」
「え?カク、知らないの?
今日、夕方から雨って予報で言ってたよ」
……はい?
「カク、傘ないの?」
いや、待ってください。
伊達先輩、桜先輩……。
これじゃ夕焼けなんて見えませーん!
「うん、ない……。俺、晴れ男だし……」
「そんなの関係ないでしょ」
そう言って結奈ちゃんは俺を傘に入れる。
結奈ちゃんの小さい傘が俺を雨から守る。
「えっ?!良いの?!」
「うん。だって濡れちゃうよ?」
結奈ちゃんは俺の身長に合わせて腕を目一杯上げて傘をさしてくれる。
「あ、俺が持つよ」
傘を受け取ると「ありがとう」と、可愛く笑った。
雨は霧雨。俺の肩を優しく濡らす。
「じゃあ、そろそろ帰る?」
結奈ちゃんは小さく俺に聞く。
「うーん……。そうだねぇ……」
雨も降ってるしなぁ……。
「じゃあ……、帰る?」
俺がそう言うと。
「うん。帰る」
結奈ちゃんは傘を持つ俺の手に手を重ねてきた。
サァーっていう雨音が何だか少し素敵で。
夕焼けはないけど、ここしかないって思った。
「結奈ちゃん」
「ん?なに?」
「目、つぶれる?」
結奈ちゃんは恥ずかしそうに頷く。
俺は傘を少し傾け、見上げた結奈ちゃんの唇にゆっくり近付く。
結奈ちゃんはギュッと目を閉じた。
雨は俺達を包むように優しく、降り続ける。
「……カク」
「何でしょう?」
唇を離すと結奈ちゃんが笑って言った。
「私が雨女で良かったです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます