第44話 ダイバーライセンス
次の日の朝早く。
龍輝が以前アルバイトをしていたダイビングショップ『コーラル・ドリーム』へと向かった。
店内に入るとオーナーの知念さんが、「おお! 水島君、いらっしゃい」と朗らかに声をかけてきた。
「ご無沙汰しています。お元気そうで良かったです」
龍輝も嬉しそうに挨拶する。
「久しぶりだな。うーん、三年? 四年ぶり? 勤めてからは全然来てくれないから寂しかったよ」
「すみません。仕事が忙しくて」
「でも、綺麗な奥さん連れて来てくれて。良かったな。おめでとう!」
その言葉に、一瞬龍輝も一華も動きを止めた。
奥さん!
ドキリとした一華。
「いや、未だ奥さんでは無いんですけれど……」
照れたように頭を掻いた龍輝。
「あ、そうだったんだ。あ、確かに、苗字が違うね。ははは」
知念さんも、ちょっとバツが悪そうな顔になる。
今、未だって言ったわよね。
一華の鼓動が大きくなる。
未だってことは、龍輝さんは結婚も意識してくれているってことよね?
遂に、私もウェディングドレスを着る日が来るかも!
振り向いた龍輝はにっこりしただけ。
うーん。読めない。龍輝の本心は読めないわ。
でも……
と思い直す。
龍輝さんと私、まだ始まったばかり。今は一歩ずつ、互いを知り合っているところだもの。
冷静に、じっくりと見極めなきゃ。
でも……できることならその先に、共に過ごす未来があったらいいな。
そんな一華の考えは、知念の声で現実に引き戻された。
「水島君は器材レンタル代だけでいいよ。彼女さんの専属インストラクターだからね」
そう言って、下手なウィンクを二人へ投げてきた。
「ありがとうございます! やった」
無邪気に喜ぶ龍輝。
「でも、バイト代は出さないけど」
「もちろん。そんなのいただけないですよ」
向き直ると、「これで堂々と一華さんに張り付ける」とニコニコしている。
本来、ライセンス所持者の龍輝が一華と行動を共にするケースは無い。
ファンダイビングに直接参加する形だ。
だから、インストラクター扱いで同行できるように、知念さんが配慮してくれたのだった。
『PADIオープン・ウォーター・ダイバーライセンス』
一華が今回習得しようと思っているのはこのコースだ。受講資格は十歳以上。知識講習、
『Cカード』を取得すれば、水深十八メートルまで潜ることができて、海外でも通用する。
マンタとの遭遇ポイントは十メートルから二十メートルの付近が多いので、この資格を持っていれば十分チャンスがあるのだ。
この日の受講者は一華を含めて三組。
OLらしき二人組みの女性と、熟年夫婦。
そして一華。
まずは学科試験。
受講申込すると、事前に講習資料が送られて来て、オンライン授業を受ける事になる。
その内容の確認試験に合格できないと、先に進めない。
一華は龍輝にマンツーマンで教えてもらっていたので、難なくクリア。
他の二組も無事合格できたようで、次は
と言ってもこちらのスクールでは、プールの代わりに美しい浅瀬の海で実習することができる。
龍輝が言っていたように、早速楽しめるんだわ。嬉しい!
スクールの階下に降りれば、ニコニコと龍輝が近づいて来た。
「お疲れ様。試験バッチリ」
「うん。良かった」
ウェットスーツに着替えて来ると、準備を手伝っている龍輝の姿。
今日のインストラクターは龍輝の知り合いだったらしく、一緒に作業をこなしながら楽しそうに笑っている。
私が知らない龍輝さんを知っているんだわ。いいなぁ。
羨ましいし、悔しい。
そんな自分に驚いた。
私ったら龍輝さんのこと、もっともっと知りたくて仕方ないのね。
そんな貪欲な思いは、好きだからこそ。
可愛い嫉妬も『恋心』ゆえ。
だが、一華は急に不安になった。
どうしよう! 私、独占欲いっぱいの束縛彼女になっちゃったら。
こんな剥き出しの心は初めてだった。
そして、はっと気づく。
私、今までは理性で恋していたんだ。
こんな風に、感情に翻弄される事が怖かった。
いつも完璧でなければいけないという呪縛のせいで、自分でコントロールできない事が極端に苦手になっていた。
だからいつも先回りして、自分の事も、相手の事も、『
元カレたちが去っていったのも、きっとそのせいね……
でも、龍輝さんは全然違っていて、私が思い描いた斜め上の反応ばかり。
それなのに、怖いとか不安とか思うことは全然なくて、寧ろ嬉しかったりドキドキしたり。
新しい私を一杯引き出してくれる。
嬉しそうに笑いながらこう付け加えてくれるに違いないわ。
『そんな一華さんも素敵ですね』って。
そう思った瞬間、心がふわっと軽くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます