2-5.5 幕間

「次は品川。品川です」

目的地に到着するアナウンスで頭が強制的に覚醒する。

ここ数日は指名が多く、昨日も泊まりの仕事だったため、寝不足が普段よりも酷い。ここまでの移動中、居眠りをしていたようだった。最近、こういうことがよくある。

今日はあの日から二回目の「タカフミさん」からの指名だった。

前回はタカフミさんが店に来ていたが、今回は店外での仕事であり、しかも泊まりだった。よっぽどあの客は僕を好いているようだった。

電車から降りて、人の少なくなったところで大きく伸びをする。肩には出張用のバッグを担いでいるため、肩がこる。中身はローションとかゴムとか、汚れてもいいようなタオル類が入っている。

頑張ろう。これが終われば明日は休みだ。

改札を出て、品川駅港南口へ向かう。そこが今日の待ち合わせ場所だった。


店外での仕事は大きく分けて二つある。

一つ目は他店舗での仕事だ。都心を中心に弱小ながら系列店が存在しているアルカディアは、他の店に在籍しているボーイを自分の利用している店舗まで追加料金なしで呼びつけることができる。その後は自店舗で客を取ったときと同じだ。

二つ目は今回のように、客の家、あるいはホテルでの仕事だ。泊まりであれば先に店に自分の取り分以外の金を納金し、合流してそのまま客から受け取った料金がその日のギャラになる。泊まりでなければ、その料金は後で店に戻って清算、取り分をその中からもらうことになる。要は泊まりの時だけが特殊で、泊まりじゃなければほかの場所でも自店舗で客を取るのと基本的には変わらない。プレイする場所が違うだけだ。


羽田空港も近い日本の玄関口である品川駅周辺にはホテルが数多くある。代表的なのは品川プリンスホテルで、ここは映画館や水族館も併設されている。

今日の指名は19時からだったから、きっとそこらの施設でデートした後にセックスという流れだと思ったのだが、待ち合わせ場所に指定されたのは港南口のほうだった。港南口にはこれと言って大きな商業施設はない。

帰宅する途中であろうサラリーマンたちの人流を逆流しながら港南口へ向かい、駅の壁際に寄り、待ち合わせ場所に到着したことを店経由で連絡する。以前、非通知設定にし忘れたボーイが客に執拗に電話を掛けられるという嫌がらせを受けたことがあるらしく、アルカディアでは万が一のトラブルを避けるため、客とボーイ互いに電話番号を伝えさせないようにしている。

今日の仕事は「お客様の家で」という御達しだった。もし僕を指名した「タカフミさん」が本当にバレーボール選手飛田鷹史であれば、この先にある天空を裂く巨大なタワーマンションに住んでいる、というのもあながち無いことでもないのかもしれない。バレーボール選手の年収っていくらだ?そう思ってスマホで調べようとすると、肩をトントンと叩かれた。

顔を上げると身長が160cm前半しかない自分にとっては見上げるほどの体躯をした今日の客、「タカフミさん」がそこにいた。

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カラーズ 朝雨さめ @same_yukikaze

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