第45話

いざ説明してみるとなんだか幼稚な理由で恥ずかしくなった。怪訝な表情の響がじっと見つめてくるから尚更。


なんだよ、なんか文句あんのか?と開き直ってムッと彼を睨めば、お行儀悪く噛んでいたストローがパッとメロンソーダに沈む。



「……先輩って男?」


「え?」



思っていなかったツッコミどころに一瞬呆けた。



「……まあ、男の人もいるけど」



質問を咀嚼してようやく返せば、怪訝な顔は苦虫を噛み潰したような顔に変化する。



「何それ、普通にセクハラじゃん」


「そんなんじゃないよ、いい人たちなんだから悪く言わないで」


「……」



何も分からない私にすごく優しくしてくれる人たちを貶されるのは、たとえ相手が響でもいい気はしない。


はっきり否定すると、拗ねたようにツンッと赤い唇を突き出し窓の方を向いた。



「……俺の方がいい人だもーん」


「は?」


「俺の方が涼の人生に貢献してるもーん」


「……」



子どものような言い草。反論する気がポキッと折られて、母性本能ばかりをくすぐられる。


こういう時はこちらが折れるのがお決まり。くすくす笑って「はいはい、ありがとうね」と適当に返すと大きな瞳がチラリとこちらを見た。



「なぁ、スカート。涼が着たかったから着たの?」


「え?……う、うん?」


「……その先輩に似合うって言われたからじゃねぇの?」


「まあ、背中は押してもらったけど……」



厳密には……響に少しくらいは女に見て欲しかった、というか。


不意の質問のせいで本心がスッと喉元まで昇った。


しかし、当然そんなことは言えるはずもなく、「ただ着てみたかっただけ」と付け足せば、「……ふーん?」と響の視線は再びカンカン照りの夏を見つめる。


美しいEラインを眺めながら、少しだけ彼のご機嫌が戻ったことに気づけるのは……多分、長年連れ添った私だからこそだと思う。

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