第40話
隙あらば親や医者に隠れて練習しようとする私を目敏く見つけ出し、走ること以外の遊びに連れ出してくれた。
「もっと楽に生きろよ。全力で休むのが一番早く治す方法じゃねーの?」
「俺だって涼の走ってるとこ好きだから、放っておかれても我慢してたわけで」
「休憩期間くらい俺にちょうだいよ」
今よりまだ随分と幼く、身長だって低かった。女の子のように可愛らしい顔立ちから放たれた数々の言葉にドキリと心臓が音を立てた瞬間、【守りたい】に【愛されたい】が混じり始めた。そんな13の夏。
しかし、せっかく気がついたその気持ちが打ち砕かれるのも丁度その頃。
「昼飯まで時間あるし、どっかブラブラするか」
「……、」
「涼、どっか行きたいところ……涼?」
「え、あ……ごめん、ちょっと考え事してた」
つい昔のことを思い出していれば、分かりやすく顔を歪められた。
「目の前に俺がいて、他のこと考える人間なんてお前だけだ」
「すごい自信」
「事実だからな」
「まあ、……そうですね」
フンッと鼻を鳴らす彼の言葉はそのとおりなので苦笑いしつつ頷く。
この容姿を持って、人を寄せ付けるオーラを抱えて。もちろん得することもあっただろうが、もしこのステータスが廃棄可能ならば、彼は迷いなくゴミ収集車に乗せてしまうだろう。
そのくらい、苦労の方が多かったから。
駅ビルのエレベーターに乗り込むと、「……くっさ、」と響が鼻を押さえた。箱の中には前に乗っていた女性のものであろう香水の香り。
「女クセェ。涼、手貸して」
「……」
繋いでいた私の手を持ち上げて鼻から口までを覆うとスーハーと深呼吸を繰り返す。くすぐったかったが、彼の心の安定のために我慢した。
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