私の気も知らずに

「あふ」

 隣で高野が大きな欠伸をしている。

「なんか春が近いと眠くなるよな」

「高野はいつも眠そうじゃん」

「まあ、そうだな」

 いつもの高野。私も普段通りを懸命に演じる。

 学校を出てからすぐでは学生が多すぎる。どこで告白しよう。

 詰めの甘い自分に軽く下唇を噛んだ。

 ーーと。

 俯き気味だった私の視界に高野の顔がいっぱいに広がり、

「な、何?!」

 と私は悲鳴をあげた。

「何緊張してんの? 佐原。顔色も悪いけど、大丈夫か?」

「近い!」

 冷や汗をかきながら私は高野の顔を手で押した。

「なんだよ、心配してんのに」

 高野は短髪の頭を掻きながら目を不貞腐れたように細めた。

「で? 話ってなんだよ?」

 高野の声色が変わって私は慌てて隣の高野を見上げた。真剣な高野の目が見つめ返してくる。

「えっと、なるべく人が少ないとこで話したいんだけど」

 私はその視線から逃れるように目を逸らして言った。

「ふーん? そうだなあ。じゃあさ、神社行かね? あそこ、普通の日誰もいねーから」

「神社?」

「そ。知らない? 歩いて十五分ぐらいんとこ」

 私は首を傾げた。

「行ったことない」

「ま、いいからついてこいよ」

 私は高野は向きを変えて、いつもの帰り道とは逆の方向に歩き出す。そういえば高校に二年も通ってるのにこっちの方向には行ったことがないな。



「何が十五分?」

 私は膝に手をついて肩で息をしていた。石でできた階段、いったい何段あっただろう。

「十五分と階段」

 日頃から鍛えているからか高野は息も乱さずしれっとそう言った。でも、その額にはうっすら汗が滲んでいる。

「佐原、後ろ、見てみ?」

「え?」

 高野の言葉に私は後ろを振り返って、言葉を失った。町が一望できた。高校が小さく見える。私の家はどの辺りだろう。

「こんなとこあったんだ」

「ん。夕日が沈むときは圧巻だぜ?」

「今でも十分凄いよ」

 本当に十分すぎるほどの舞台だ。神様もきっと見ている。

 私は上ってきた階段の一番上の段に腰を下ろした。高野もその隣に座った。

 私は額の汗を拭って、迷ったけど学ランの上着を脱いだ。小さな抵抗だった。高野は私が話すのを待つように黙っていた。

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