第17話 乙女(?)な黒聖女

「お邪魔します…」

「そんなに警戒しなくても、別に取って食べたりなんてしませんよ」

「聖女様の家ってだけで緊張するんだよ」


 柴乃に連れられて家の中へと足を踏み入れる。先ほどまで桜の家にお邪魔していたとはいえ、そう簡単に女子…しかも聖女といわれるほどの美少女たちの家というのは、そう簡単に慣れるものではなく、俺はうるさいほど脈打つ心臓を落ち着かせようと必死になっていた。


「とりあえず、先に私の部屋に行っておいてください。私は飲み物などを用意してから向かいますので」

「別に気を遣う必要はないぞ」

「お客様をもてなすのは、家主としては必要最低限のことなのでどうかお気になさらず。私の部屋は2階の突き当りにあります」


「そこまで言うなら」と俺はおとなしく柴乃の厚意に甘えることにして、俺は2階へと続く階段を上る。

 柴乃の家の中は、黒や白を基調とし全体的にシックな雰囲気だ。なんとなく、普段の柴乃の雰囲気と似ているものを感じ、ここが柴乃の家であるということに謎の説得力を感じる。


「ここが聖女様の部屋か…」


 言われたとおりに2階の突き当りへ行くと、かわいらしい文字で「しの」と書かれた看板が付いているドアを見つけた。


「入るか…」


 まだ完全に緊張は解けていないものの、いつまでも部屋の前で立ち往生するのもおかしいので、俺は意を決して柴乃の部屋のドアノブをひねり、部屋の中へと足を踏み入れる。


「なんというか…意外だな」


 柴乃の部屋は、黒や白を基調としているという点ではイメージ通りなのだが、ぬいぐるみや少女漫画など部屋のいたるところに、女の子らしい物が置いてあった。普段のイメージから、俺は必要最低限のもしかおいていないシンプルな部屋を想像していたのだが、どうやら勘違いだったらしい。


「柴乃もちゃんと女子なんだなぁ」

「私のことを何だと思っているんですか…」

「うわっ!びっくりした!」


 突然背後から聞こえてきた柴乃の声に、俺は肩をはねさせる。いつの間にか追いついていたらしい柴乃は、どうやらしっかりと俺の言葉を聞いていたらしく、コップを乗せたおぼんを持ちながら呆れたようにため息をついていた。


「部屋に入るなり失礼なこと言わないでください。”私たちだって1人の女の子だ”とさっきも言ったはずですよ」

「あぁ、悪い。なんというか意外だったからさ。普段の柴乃は、ほかの人よりも大人びている雰囲気だし、ぬいぐるみとか漫画とかそういうものにあまり興味がなさそうだったからさ…」


 柴乃の追求から逃れるように俺が言い訳すると、柴乃はまたもため息をつき、かぶりを振って何かをあきらめたような仕草を見せる。どうやら俺は相当な地雷を踏んでしまったらしい。


「灰斗さん。よく覚えておいてください。すべての女の子とまでは言いませんが、大半の女の子は少女漫画のような恋愛にあこがれるものです。小さなころから漫画を読んではきゅんとしたり、ドキドキしたりするんです。私もその一人です。そのことは絶対に忘れないようにしていてくださいね」

「あ、あぁ。わかったよ…」


 早口で長々と語る柴乃の勢いに圧倒されながらも、俺は声を絞り出してそう答える。なんとなくだが、先ほどまで嬉々として”女の子”を語っていた柴乃の瞳はいつもより輝いていたような気がした。

 もしかしたら俺は、柴乃の新たな一面を垣間見たのかもしれない…

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