雨の夜

ユウ

雨の夜

プロローグ



 このは何とも恐ろしい





 聖職者になって十数年。



 神につかえる者として最近思う事がある。



 その思いはここ数年で増幅の一途を辿り、決して私だけが感じている事ではないと断言出来る。



—―この世は何とも恐ろしい。



 テレビのニュースや新聞で取り立たされる事件は、年々とその恐ろしさを増していく。



 誘拐然り、強盗然り、殺人然り、戦争然り。



 しかし何よりも怖いのは、その手のニュースや新聞を見ても大して驚きもしない事にある。



 これは一種の慣れなのだろうか。「ああ、またか」程度で終わってしまう。



 そして残念ながら私もそう感じる人間の中のひとりであり、神に仕えていようがいまいが、感じる事は誰しも変わらない。



 しかしよくよく考えてみれば、それらのニュースが余りにも非現実的すぎるが故に、大した驚きも動揺もしないのかもしれない。



 どこかの国で戦争が起きたと言っても、自分の身に何かがある訳ではない。



 どこかで誰かが誘拐されたとしても、自分の周りの人間が減る訳ではない。



 どこかで誰かが殺害されたとしても――。



 自分とは掛け離れた場所や人間で起こる事件に対し、所詮しょせんは他人事だと思う気持ちが心のどこかにあるのだろうか。



 だからこそ逆に、知ってる芸能人や著名人のニュースには興味をそそられるのだろうか。



 話した事はなくとも、顔を知ってるという程度の知人。



 非現実から少しだけ現実味を帯びる距離にある人物のニュース。



 テレビや新聞でそういったたぐいの人物のニュースが、他の物よりも多くを占めているのは、見る側のそういう人間心理をついているからかもしれない。



—―この世は何とも恐ろしい。



 この世を創造した神は、今の世をどうお思いか。



 なげかわしく思っておいでか、それともこうなる事までも読み取っておられたのか。



—―この世は何とも恐ろしい。



 私がその恐ろしさを痛感したのは、ある秋の夜の事。



 雨の降る、肌寒い夜だった――。

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