第39話

猫は雨の日に捨てられていたと聞いていた。彼が、今でも雨を怖がるんだと言っていたのを思い出し、少女は贖罪の意味を込めて、更に胸の中へと抱き込んだ。優しく背を撫でてやると、少しだけ呼吸が穏やかになった気がする。甘えてくる猫の気配を指先で感じながら、少女はもう一度窓の外を眺めた。


闇をも濡らす雨はなかなか止みそうにない。普段であれば薄っすらと白む空も今日ばかりは曇天に覆われ、家々から漏れる明かりをも呑み込もうとする。


そう言えば、今朝、彼が見ていた天気予報では雨は降らないと言っていた。記憶が正しければ、彼は傘を持っていない。外れた予報になかなか帰って来ない理由が重なり、少女は壁に掛かった時計を見上げた。おそらく終電の時間は過ぎている。幸い、猫は抱き締めたことで落ち着いてくれたのか、いつの間にか寝息を立てていた。


――…困ってるかもしれない。そんな考えが漠然と脳裏を過る。酷く怖がりな猫を案じ、雨が降った日は息を切らして帰ってきていたほどだ。もしかしたら雨なのも厭わずに濡れて帰ってくるかもしれない。そう思ったら、少女の意識は自然と窓の外へ向いていた。


起こさないようにそっと猫を下ろし、猫用の器に新しい水を注いでからもう一度外を眺める。頭上には星一つ見えない空が広がり、単調な雨音がノイズとなって不安を煽る。それでも一度思い立ってしまえば迎えに行かないという選択肢はなく、少女は借りた服を濡らさないようにと、自身の制服に着替えた。


そして寝入った猫を撫で、


「すぐに帰ってくるからね」


密やかな声で約束を結び、傘を持ってアパートを出る。

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