第11話

その日から僕と猫は一緒にいる。


アパートを追い出されるのも覚悟で住居を共にする。


獣医には『これからどうされますか?』と、里親に出す選択肢も与えられたが、里親に出すことはしなかった。


幸い、大人しい性格なのか、か細い鳴き声が部屋の外に漏れることはなかった。仕事で留守にしているときも何をして過ごしているのか、部屋が荒らされている痕跡はなく、物ぐさな性格の自分にとっても都合がよかった。


だから一緒に住めている、という部分もある。




「とりあえず入ったら?」




僕は控えめにすり寄ってくる猫を撫でながら言う。指を通した毛並みは柔らかく、温かな拍動が手の平ごしに伝わってくる。リビングの扉を開けて猫を下ろせば、詰めるような息遣いを背後で感じた。




「入れてくれるんですか?」


「帰れって言ったら帰ってくれるの?」


「いえ、帰らないです」


「それはそれで怖いね」




曇りのない声にクスクスと笑う。


清々しいほどの横暴さに毒気を抜かれ、大概僕も順応力に長けているな、と、靴を脱ぐ気配に頬を緩めた。


近づいてくる足音に耳を傾けながら対面式のキッチンに入れば、遅れてやってきた彼女が薄暗い廊下から顔を見せる。その目は部屋の中をぐるりと一周し、やがて足元の猫を捉えた。


僕はそんな彼女を横目に見つめ、冷蔵庫の中からペットボトルのミネラルウォーターを取り出す。次に食洗器に入れっぱなしにしていたグラスを手にし、はた…と、その手を止めた。


さすがに、何か、出すべきだろうか。

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