第9話
「大きな声は出さないでね」
「その猫、あなたのですか?」
「そうだよ。だから大きな声は出さないで」
面倒事を避ける理由――…もちろん僕自身の性格もあったが、一番の理由がこの猫だった。入居時の規約を読む限り、ペットの飼育は禁止されている。規約を破って猫を飼ってる時点で面倒を抱えてる自覚はあったが、それでも雨の中で死にそうになっている猫を放っておくことは出来なかった。
特別猫が好きなわけでもない。
猫を飼っていたわけでもない。
消えそうな灯を守ろうと使命感が働いたわけでもない。
気まぐれと言えば気まぐれだった。紫陽花の青々とした葉が梅雨の匂いに濡れる頃、勤める会社では四半期の決算を迎えていた。
その日も日々の業務に加え、日付が変わる深夜まで数字と睨めっこしていた僕は相当疲れていたのだと思う。タクシーさえ捕まらずに寝静まった住宅街を歩いていた僕は、ふと公園の脇を通り過ぎようとしたところで細く千切れそうな声を聞いた――…気がした。
聞いた気がしたのは、その声があまりに弱々しくか細いものだったからだ。確信はない。だけど確かにシトシトと夜闇を濡らす雨音を縫った気がして。気づいたら僕の足は公園の中へと向いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます