第8話

横目に通り過ぎていく住人の目が僕たちを捉える。


反射的に挨拶を返せば、足音の主は夜間アルバイトをしている隣人だった。基本的にご近所付き合いは希薄だったが、長年同じところに住んでいれば隣人の生活スタイルくらいは見えてくる。


挨拶を投げる口ぶりは至って普通だが、目の奥は女子高生と対峙する状況を明らかに訝しんでいた。


僕は努めて平静を装い、軽く頭を下げた。隣人も同じように会釈を返す。訝しむ色は消えない。




「部屋、入ろうか」




僕は何食わぬ顔で財布を隠した。


代わりに微笑みを浮かべ、ドアノブを捻る。


尻目に"え?"と瞬く彼女が見えたが、無視した。


じゃあ、おやすみなさい。と、頬を緩めたまま彼女の背中に手のひらを添え、もう一度隣人に向かって頭を下げてからドアを閉める。


パタン、と閉まったドアが外からの干渉を絶ち、淡いオレンジ色のセンサーライトが家主の帰りを出迎えた。




「どうして部屋に入れてくれるんですか」


「僕が聞きたいよ」




無邪気な双眸に髪をかき上げる。


訝しむ視線から逃れるための、咄嗟の判断だった。


面倒事を避けて暮らすにはトラブルはご法度。きょとんとする彼女を置き去りにして靴を脱ぐと、リビングでは小さな物音がした。




「あ、猫」




ゆらめく影にいち早く気づいたのは彼女だった。誰に向けたわけでもない声が追いかけてくる。僕は2メートルほどしかない廊下を進み、ぴょんと床を蹴った猫をこの腕に抱いた。

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