第12話 スタメン発表
3月。オープン戦が始まる。
シーズン開始まで残り1か月を切っており、各チームとも、スタメンの選手を固定し始める時期だ。
当然、我がチーム、千葉ユニコーンズでもその話題になり、私、監督の島津、打撃コーチの相良、投手コーチの山県が集まり、その話になった。
そして、その場にも私は愛華、そしてボディーガードの神戸を立ち会わせる。
当然ながら、ほとんど門外漢の部外者でもある二人が同席することに、彼らは快く思っていなかったが。
さらに、スタメン選定の場で、揉めることになった。
1. 足利優太(右) 26歳
2. 柏木俊太郎(左) 30歳
3. 谷村総司(遊) 31歳
4. 桜庭宗俊(三) 34歳
5. ブライアン・ロペス(DH) 30歳
6. 蒲生虎太郎(一) 34歳
7. 大道寺明(捕) 38歳
8. 長野蒼(二) 24歳
9. 一条春風(中) 19歳
先発 高坂太一 32歳
中継ぎ 仙石次郎 39歳
抑え 真田将太 22歳
おおむね、このように決定し、代打には安斎利光(41歳)を置いた。
しかし、
「ありえないな。そもそも桜庭を4番にするくらいなら、まだロペスか谷村の方がいい」
と島津監督が真っ先に反対した。
打撃コーチの相良も、
「長野や一条を出すくらいなら、他にもっと打てる選手がいます」
と険しい表情で反対。
同じく投手コーチの山県も、
「真田が抑えなのはともかくとして、仙石が中継ぎは想定外です。高坂もまだ本調子ではありません。2軍からもっと活きのいい選手を上げましょう」
と私に割と好意的な彼も反対していた。
だが、私は愛華が示した、出塁率とWHIPのデータ、さらにはOPS(=出塁率と長打率を足したもの)と与四球のデータを出して、主張した。
「データ的には、これがベストです」
当然ながら、彼らはいい顔をしなかった。
「無理ですよ、GM。これでは前半戦だけで壊滅します」
「まったくです。高校生のお嬢さんにはわからないかもしれませんがね。野球はデータだけでは勝てないんです。我々には、何十年も野球を見てきた経験がある」
ついには、監督も打撃コーチも、おおっぴらに私に対して、不満を述べるようになっていた。
「投手面から見ても、賛成はできません。昨年からの実績を考えると、他の選手の方が……」
父の知り合いで、私には比較的好意的な態度の、投手コーチもまた、いい顔をしなかった。
しかし、ここで驚くべきことに、ある男が口を挟む。
「あんたらの意見はわかるが」
あの、元プロボクサーの神戸だった。
皆の視線が彼に注目する。
「大将がこう言ってんだ。部下なら従うのが道理だろ。それに負けても責任はGMが取る」
最後の一言は、私へのフォローではなく、真実を示していたが、私は、
「ありがとうございます」
一応、フォローしてくれたことに、礼を述べていた。
だが、彼らとしては当然、面白くない。
「どうなっても知らないぞ」
「まあ、どうせ女子高生のたわごとでしょう。負けてクビになるのは、あなたですが、それでも我々を巻き込まないで欲しいですな」
島津監督と、打撃コーチは明らかに、私を挑発するように、否定的な見解を述べる。
「いくらGMの言葉でも、奇跡でも起こらない限り、勝てませんよ」
私の父を知っており、割と好意的だと思っていた、投手コーチまでもが反対していた。
そんな中、私は愛華を見て、目配せをする。彼女はわかってくれた。
「奇跡は、これから起こします。データがそれを証明しています」
元・プロボクサーの神戸はほくそ笑んでいた。つまり、私と愛華と神戸以外は、誰もいい顔をしなかった。
味方がいない状態で、いよいよオープン戦がスタートする。
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