第2話 呼ばれた理由
……よくわからないが、とりあえず人には会えたな。
レオが駆け出し、そのまま一直線にここに来た。
そして火の玉を前足で弾き飛ばし、俺を女性の前に下ろして熊らしき生き物と向かい合っている。
「レオ!」
「ウオォーン!」
一瞬だけ振り向き『僕に任せて!』と伝えてくる。
不思議なことに、レオに任せて平気だと思えた。
なので、その間に膝をついてる女性に向かい合う。
「あの、すみません」
「な、何者だ? そして、あの狼は……いや、まさか」
その女性はブツブツ言い、自分の世界に入ってしまった。
そこで俺は気づく……女性が不思議な格好をしている事に。
長く綺麗な銀髪に、切れ長な目と整った顔つき。
ただ、その頭のてっぺんには耳がついていた。
もしかして、コスプレの人だろうか?
「あの?」
「ち、近寄るな! 」
「おっと、これは失礼しました」
俺は一歩下がりつつ謝罪をする。
こんな見知らぬおっさんが近づいたら警戒するのは当然だ。
悲しいが、世の中はそういうものである。
「な、なんなのだ……調子が狂う」
「すみません。とりあえず、アレを倒してもいいですか?」
「倒す? お主が?」
「いや、多分……うちの子が」
自分でも何を言っているかわからないが、レオが負けるとは思わなかった。
女性は少し考えた後、ゆっくりと頷く。
「……倒せるならやってみるがいい」
「わかりました。レオ! 倒しちゃっていいぞ!」
俺がそう言うと、レオが大きく頷いた。
そのまま、熊に向かって飛びかかる。
「ワフッ!」
「ゴァァ!?」
ただの犬パンチによって、熊が吹き飛んだ。
何あれ? 俺、あんなの食らったら死んじゃうけど?
……後でしっかり言い聞かせないと。
「なんだと、フレイムベアを吹き飛ばした……」
「いやー、すごいですね」
「やはり、あの方は……しかし、どうして人族にしたがってる?」
すると、また女性は黙り込んでしまう。
これ以上警戒されたくないので、大人しく戦いを見守ることにした。
熊……フレイムベアっていう生き物が、レオに向けて火の玉を放つ。
最近の熊は火を放つのか……んなわけあるか。
「やっぱり、夢でも見てるのだろうか」
「ゴァ!」
「アオーン!」
すると、なんとレオの口から氷の玉が放たれた。
あの子ってば、いつの間にそんな能力を……ほんと、どうなってるんだが。
俺の混乱を他所に、レオはフレイムベアを攻め立てていく。
次第にフレイムベアは、防御することすらままならない。
「ゴカァ!?」
「ウォン!」
「ガ……ゴァァァァ!」
ダメージを負いつつも、フレイムベアが腕を振り下ろす!
その爪がレオに突き刺さるかと思えたが……当の本人はケロってとしている。
「ワフッ?」
「……ゴァ!?」
どうやら、レオの皮膚に爪が刺さらなかったらしい。
ほんと、あの子はどうしてしまったんだか。
まあ、考えるのは後にしよう。
「ウォオン!」
「ゴカァ………」
気がついた時、フレイムベアが木に叩きつけられていた。
その首は曲がっており、どう考えても絶命している。
「今の動き、まるで見えなかったな……」
「間違いない……山神様だ」
「はい? 山神様?」
「別名フェンリルとも呼ばれる、神々の住処に続く山の頂上に住むと言われる伝説の魔獣だ」
なんだそれ……うちの子はただのサモエド犬なのだか?
いや、確かに姿形は少し変わったけれども。
「うちの子は普通の犬ですよ?」
「犬と狼を一緒にするでない! そもそも、何故山神様が従っているのだ?」
「いや、そりゃ飼い主ですし……」
「飼い主……まさか、神だというのか!? いや、だとしたら私は飛んだ無礼を……いや、そもそも助けてもらった態度ではなかった」
すると、打って変わって女性が頭を下げてくる。
「あ、頭をあげてください。そもそも、警戒するのは当然ですし」
「私の知る人族の男とは違う……やはり、神なのか?」
「だから、神様でもないですって。あぁー、色々聞きたいのはこっちなんだけど」
どうにも話が通じない。
というか、何から聞けば良いんだ?
困っていると、レオがトコトコとやってくる。
「ウォオン!」
「レオ?」
「なるほど、神という訳ではないと……では、どのような?」
「ウォン!」
「ふむふむ、なるほど……」
俺を置いてけぼりにし、二人で何やら会話?をしている。
どうやら、この女性にはレオの言葉がわかるらしい。
仕方ないので、俺はレオの毛並みを整えて待つことにする。
そして、数分が経過して話がついたようだ。
「ひとまず、山神様の言いたいことはわかった。お主は神ではなく、山神様のお世話係ということだな?」
「ウォオン!」
「違う、飼い主ですって? ですが、それだと神様ということになりますが……」
「ククーン……」
レオは尻尾が垂れ下がり、しょんぼりしている。
どうやら話は通じたが、理解は得られなかったというところか。
おそらく彼女の中では山神ということは決まっており、その飼い主となると神しかいないのだろう。
「お世話係……まあ、そうなるかな」
「ウォン?」
「良いんだよ、俺とお前は対等だ」
レオがいなければ、俺は孤独だったに違いない。
彼女もいなく、ただがむしゃらに働く日々。
疲れて帰ってきた時、レオがどれだけ癒してくれたかわからない。
「とりあえず、山神様がお主を信頼しているのはわかった。そして、神に呼ばれたということも」
「呼ばれた覚えはないのですが……」
「山神様曰く『鉄骨に潰されて死ぬ前にこちらの世界にいる神様が助けてくれたと。理由としては、死なせるには惜しいと思ったそうだ』。そして、自分の管轄であるこの世界に送ったそうだ」
全く理解は追いつかないが、何となくわかった。
あの時痛みを感じなかったのは、直前に助けられたから。
そして送られたいうことは、ここは別の世界ということか。
「なるほど……死なせるには惜しいって何だろ?」
「ウォオン!」
「ふむふむ……ここまでの愛犬家を見たことがないと。後は犬神様が願ったそうだ、ご主人様を助けたいと。おそらく、神の眷属である犬神様の願いを聞き届けたのだろう」
「はぁ……そうなのですか」
別に俺以上の愛犬家は一杯いるし、自分が特別だとは思わない。
ただ一つわかっているのは、助かったのはレオのおかげということ。
理由としては俺は神様?とやらに会ってないが、レオは会っているらしい。
つまり、俺はついでの可能性もある。
「レオ、ありがとな」
「ククーン……」
「どうした?」
何やら尻尾が垂れ下がり、情けない表情だ。
「犬神様は自分の責任だと思っているようだ。よくわからないが、自分がいなければお主は助かったとか」
「あぁ……そういうことか」
おそらく、俺一人なら鉄骨から避けられたと思っているのだろう。
確かにそうかもしれないが、あそこで一人だけ避けるという選択肢はなかった。
俺は大きくなったレオの頭を撫でる。
「ウォン……」
「なに、気にするな。こうして俺は生きているし、レオもいる。ほら、そんな顔するなって」
いつもみたいに両手で首回りをもみくちゃにする。
すると、ようやく舌を出してサモエドスマイルを浮かべるのだった。
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