第119話

***



「九百九十二っ…九百九十三っ…っ。」



まだ薄暗い道場。



うっすらと雲に影が伸び、山際が光り始めた頃。



「九百九十九…千っ!」



カラン、と音を立てて藤堂の手から竹刀が転げ落ちる。



「あぁー…きついっす…」



「おやおや、体力が少し落ちたかな?」



へたり込んだ彼を窘めた男は、道場の入り口に立っていた。



「山南さん!おはようございますっす!」



「おはよう、平助。毎朝、ご苦労様です。」



その男…山南は綺麗な所作で道場へ一礼した。



が、何かを迷うように視線を外したまま、中へは入って来ない。



それを見ていた藤堂は、自ら山南へ歩み寄る。



「もう日課っすから。」



「偉い。途中で怠ること無くやり続けることは、己を鍛えることにも繋がります。頑張ってくださいね。」



「はい!」



ニカッと笑う笑顔には、汗が輝いている。



誰よりも早く起きて素振りをするというこれは、彼が上京前から日課としていた事だ。



真面目な彼はそれを一日だって怠ったことは無い。



その努力を知っているから尚、山南はこの男が好きだった。

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