第65話

***



「あーあ。」



昼間に買った饅頭を片手に、縁側に座った沖田は溜息をついた。



今回の巡察で、蝶の情報を少しでも得てやろうと思っていたのだ。



長州側の疑いは無くなったにしても、彼女にはまだ謎が多すぎる。



観察方が動いてもなかなか掴めないというのは随分不可解だ。



少しでも、何か聞きだせればきっと近藤さんが褒めてくれる。



その為に、わざわざ自分の家族関係の話まで持ち出したというのに。



彼女から帰ってきた答えを思い返しながら、二度目の溜息を漏らす。



「あんな顔されちゃったらさぁ…。」



家族の話を振った時に見た、彼女の顔が蘇る。



妹を誇らしそうに話す姿や、母を思う顔。



それは、ただの心優しい町娘と同じものだった。



本当に、こうして家族を愛おしむ娘が、我々が監視しなくてはいけない敵なのだろうか。



そう思ってしまった。



「報告したくないなぁ、これ。」



情報を掴んだなら、即座に土方に報告するのが新撰組隊士の仕事だ。



しかし迷う、心が。



ただの平凡な家庭のことだ、何も怪しむ必要はない、わざわざ報告する必要なんて…



いや、駄目だ。



沖田は思い直した。



こんな事で迷う自分はまだ甘い。



味方以外は全て疑った方が良い。



敵か味方か、相手はいまだに分からない不審人物だ。


易々と気を許しては行けない。



…近藤さんを守るためには。




不意にふふっと笑うと、沖田はようやく手にした饅頭にかぶりついたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る