第63話

「母さんは穏やかな人だった。体が弱くてね、病気で死んでしまったけれど大好きだったよ。」



「…一緒ですね。」



パシャン。



魚が跳ねて、小さな水しぶきが出来る。



「私も、母を病気で亡くしました。」



「そうだったのか。」



「父も同じ病で。蝶さんは?」



今度は近くに咲いていた花を突きながら、沖田は蝶を振り返る。



「父、は。」



そこで言葉を切ると、蝶はそのまま俯く。



「蝶さん?」



その異変に気づいて、沖田は静かに声を掛けた。



妹の話をした時とは、全く異なる重々しい沈黙が流れていた。



その沈黙を破ったのは、蝶だった。



「父がどうやって死んだかなんて知らない。」



「…不仲だったんですか?」



「どうでもいいんだ、あいつのことなんて。」



その先には言葉は紡がれなかった。



ただ、何かを見据えるように開かれた彼女の目が、ギリリと歯を食い縛る表情が、その思いを物語っていた。

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