餓鬼


 倉庫の中、血に塗れた男と、全身の皮膚が焼き爛れ、息を荒げる男。そいつらと向かい合うのは、俺達。

 こいつらは、犯罪者。この島を占拠して、俺らを奴隷にしようとしたいる悪魔だ。


「さっそく、一つ聞かせてくれ。お前らの目的は何なんだ?」


俺達はこいつらのことを全く知らない。こいつらの数も、目的も、何もかも……。


「俺達は、マサトさんと、レオナさんに誘われたんです! 弾かれ者だけの島を作らないかって!」


「マサト?レオナ? そいつらが、お前らのボスってことか?」


 男たちに、さっきまでの威勢はもうない。

 子供相手にペラペラと言葉を口にする。


「俺達の大半は、冤罪で人生を壊された人間だ。もう、これ以上落ちることは無い。だから、協力することにした。もしかしたら、今までの人生を取り戻せるかもしれないだろう?」


「……でも、俺達とは別、本当の犯罪者たちもいる。殺人、暴行、窃盗……」


「そいつらは、マサトさんとレオナさんの直下の部下で、彼らは本気で島を乗っ取る気でいる」


「そいつらは、もう動いているのか?」


「いや、行動は明日。それまでは作戦会議をしているらしい」


「なるほど、なら、今日の内に全員倒さないといけない訳か……」


「誰が今日中に倒さないといけないんだ?」


 無機質な倉庫に、ドスの効いた声が響く。

 声の方を見たら、筋肉質な巨体を携えた男が三人。

 明らかに、ここに倒れている二人の男よりも圧倒的に強そうだ。

 それこそ、銃を持ったあの時の向井よりも……。


「なぁ! 言ってみろよ! 誰を倒すって⁉」

 

 男達は怒りを露わにしている。

 どうするべきか、グルグルと思考が巡る。でも、その答えは、ひどく。靄がかかったように、淀んでいた。

 俺達じゃ、不意打ちでもこいつらには勝てない。なのに、こいつは堂々と俺たちの目の前に立っている。どうしようもない。


「……お前ら、犯罪者をだよ」


 三人の男の後ろ。さっきまで、いなかったはずのその場所に……。

 一人、時季外れの薄茶色のロングコートを身に纏う、一人の中年の男。

 その男は、ほんの一瞬で、三人の男を制圧した。

 「ふぅ……」と、一口。タバコを吸う。

 今の、柔道の技か?


 考えるよりも先に、俺達は圧倒的な恐怖に襲われた。

 男は俺達に銃を向けた。


「不法侵入に、傷害、いや殺人未遂か? まぁ何でもいい。お前らも犯罪者だ」


 その口ぶりから、警察だと分かった。


「……確かに、俺は犯罪を犯しました。でも、俺は――」


「理由があれば、犯罪を犯してもいいてのか⁉ あぁ⁉」


 圧倒的な圧。体が震える、声も……。

 思い出せ、山口葵。俺はみんなのために鬼にだって、悪魔にだってなってやると誓ったはずだ。

 ……なら、こんなところで日和っていいわけがない!


「罪は償う。 すべてが終わったらな」


「……餓鬼が舐めた口を聞くなぁ」


 その銃の引き金は、下ろされた。


「ただ、今はお前らじゃない。世の中には優先順位がある」


「じゃあ……」


「ただし、四人全員。即刻この場から立ち去ってもらう」


「……分かりました」


「君たち、名前は?」


「私は、中村香織です。……実は、私たちの友達が、今の人たちに攫われて、私たち、その友達を助けに来たんです」


「なに……?」


 警察の人は、その一言で纏う空気が変わった……。


「多分、この島のどこかにいるので、助け出してもらえますか⁉」


「……分かった」


 警察の人は、言葉の残し、倉庫を後にした。

 多分、この倉庫にはかなりの数の警察の人がいる。

 かなり、行動が制限されたな……。

 どうしたもんか…………。



「外にかなりの警察が来ている」


「さすがに、動くのが早すぎないか?」


「こいつの仲間が呼んだんじゃないか?」


 ……血の匂いがする。視界は赤く濁っている。

 頭痛もひどいし、思考が淀む。

 

 ――俺の命は、あとどれぐらい持つんだろうか……

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