第12話

あの夏の日から5年経った。

アメリカから帰国した私は3才の息子を連れていたが、色々あってすっかり憔悴していた。結論を言えば両親が心配した通り、私と夫はうまくいかず離婚して帰国していた。救いなのは息子が私の心の支えになってる事。私のもと夫は、アメリカで金髪碧眼のアメリカ人の人妻と不倫したあげく相手の女と心中してしまったのだ。

しかも相手の女の旦那さんがちょっと売れてるハリウッドスターだったりしたもんだから。まったくの一般人なのに私はパパラッチなんかに追われる破目になった。

オマケに何を血迷ったのか心中する前に会社のお金を横領して愛人と2人で逃避行すると言う派手なおまけ付き。きっとセレブな金髪美女を前に駄目な方に弾けたに違いない。犯罪者が起こしたスキャンダル。しかも2人とも死んじゃったから言われたい放題。SNSで私の顔が流れてからは何処に行っても騒がれて…まさに憔悴しきっての帰国となった。旦那が不倫してたから死後でも離婚は出来たし、息子が生まれる少し前から気持ちは離れてたから清々したくらいだけど。

SNSに国境はないし日本でも散々騒がれた。このまま実家にいたら更に両親に迷惑がかかると今はホテル暮らし。

お金も無いしどうしたらいいのか思案してる所に


『お久しぶりです。日向です。覚えてらっしゃいますか。』


あの夏の日の警察官からスマホに電話が入った。


「勿論。覚えてはいますけど。」


今頃なに?もしかして元旦那の横領のこと?ちょっと警戒モードの私。


『行方不明だった守屋兄妹の話なんですが。帰国されたと聞いてご連絡させていただいたんです。』


「え!? 行方、わかったんですか!」


鬱々とした日々で久しぶりの明るい話題。


『出来ればお会いして報告したいのですが。』


「ありがとうございます。でも日向さんにお手数かけるのは心苦しいです。

愛か護さんの連絡先がわかるなら教えていただいた方がご迷惑をかけないかと。」


あの夏の日の警察官との出会いは私に取っては独身最後の良い思い出。

子連れでくたびれた私なんか見せて幻滅されたくない。

(例え相手が私に鼻も引っ掛けてなくても)そこは女心だ。


『莉子さん?』


5年の月日を隔てても、純粋に私を心配してくれる声に嬉しくなる。

でも、だから日向さんには幻滅されたくない。


「御存じでしょうけど。今、結構世間で騒がれてるので。電話で話すのがやっと。

あまり身動き取れないと言うか…」


苦笑交じりで話したら真摯な声で反論された。


『閉じ籠りは小さな息子さんの為にも良くありません。』


それはわかってるんですけどね。

私は傍らで眠る息子、みさきの頭を撫でた。日向さんに私の子供の事を心配されるとか近況はしっかり知られてるんだね。なんだか肩の力が抜けちゃった。

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