第22話 召喚

 半透明の石盤がふわりと浮かび上がる。

 

「まずは……入り口からだな」


 俺は呟き、入口に近い通路へ指を滑らせる。そこに赤いアイコンを置いた瞬間、石盤に新たな表示が浮かび上がる。


――罠設置【落とし穴】 マナ消費:50


「落とし穴を仕込んで、侵入者を一気に隔離する」


 俺の言葉に、リオが尻尾を揺らして満足そうに笑った。そして落とし穴を複数設置した。


「いい判断だ。足を止めさせれば、それだけで冒険者の動きは鈍る」


 さらに入口近くの壁に手を伸ばす。


――罠設置【矢の罠】 マナ消費:40


 矢の罠のアイコンが配置され、そこから赤い光が扇状に広がる。攻撃範囲のシミュレーションだ。俺はその広がりを見ながら、落とし穴のすぐ先に設置を決定する。


「落ちて上がってきたところに、矢が一斉に襲い掛かる……」


 頭の中で冒険者たちの悲鳴が想像される。思わず口元が緩んだ。


 セリスが瞳を細めて微笑む。どこか誇らしげでもあった。


「次はスライムだな」


 俺は石盤を呼び出し、魔物召喚にマナを注ぐ。


――魔物召喚【スライム】 マナ消費:10


 淡い光が弾け、小さなぷるぷるとした塊が部屋の中に現れる。色は淡い青。頼りなく見えるが、数を揃えれば十分な戦力になる。


「合計で……10体配置するか」


 石盤上に小さなアイコンが次々と並ぶ。落とし穴の下、通路の角、小部屋の入り口。まるで水滴が染み込むように、スライムたちが戦場の隙間を埋めていく。


「単体じゃ弱いが……数で包囲すれば、動きを止められる。いい補助になるな」


 リオの声はどこか楽しそうだ。尾が左右に揺れ、戦術を思い描いているのが見て取れた。


 さらに俺は奥の小部屋を選び、ゴブリンを配置する。


――魔物召喚【ゴブリン】 マナ消費:20


 小柄な影が現れ、粗末な棍棒を手に構えた。俺はその場に5体をまとめて置く。


「セリスの言う通り、狭い小部屋に隠しておく……侵入者が傷ついたところを背後から奇襲だ」


「はい。彼らに奇襲の役割を与えれば、冒険者の陣形は必ず乱れます」


 セリスが静かに言う。その横顔は凛として、どこか誇り高かった。


 俺はさらに通路の奥に進み、二つ目の分岐点を選ぶ。そこにはオークを配置する。

 二体並べて配置すれば、まるで関門の番兵だ。


「ここで侵入者を止める……狭い通路なら、オークの力が生きる」


「いいな。真正面からぶつければ、相手はまず足を止めるしかない」


 リオが牙を覗かせて笑った。


 そしてさらに奥、三階層への下り階段前。そこには二頭のウルフを配置した。


 灰色の毛並みを揺らし、低く唸る獣たち。鼻が利くウルフは追跡にも向いている。ここに配置すれば、逃げようとする冒険者を執拗に追い詰めるだろう。


「ここまで来られた冒険者はすでに消耗しているはずだ。ウルフの速さで逃げ場を与えず、仕留める」


 自分で言いながら、背筋がぞくりとした。

 今、確かに俺は「ダンジョンマスター」として戦場を構築している。


 セリスが俺に一歩近づき、膝を折って言う。


「……マイマスター。これでようやく、迎え撃つ準備が整いました」


 その声には誇りと期待が滲んでいた。


 石盤に表示された配置は、入り口から最奥まで罠と魔物が連携する流れを描き出している。一本道ではなく、分岐と小部屋、袋小路。冒険者を惑わせ、削り、絶望へ追い込む迷宮。


 俺は拳を握りしめた。

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