第3話-⑨

田舎に来て数日、ばあちゃんと母さんに挟まれた俺は喧嘩するふたりの仲裁に入り、時にばあちゃんの世話をしてそれはもう退屈しない忙しい日々を送っていた。携帯を触る暇もない日々を送る俺は携帯の存在をすっかり忘れていた。そして唐突に携帯の存在を思い出した。


「…あれ、俺携帯どこやったけ?母さん俺の携帯知らない?」


「知らないわよ、こっちに来てから携帯触った?」


「触ってない…」


家に忘れた?俺はそう思いカバンの中を漁るが出てくるのは着替えの服のみ。思い当たる場所を探すが一向に見つからない。


「見つかった?」


「いや…ない 家に忘れたかな」


「お兄ちゃんに聞いてみようか?家にあるか」


「うん、」


カバンに入れたような入れてないような…あの日の朝はバタバタしていたから何処かに置き忘れたのか…俺は出発した日の朝の事を思い出す後ろで母さんが兄と話している声がする。


「うん、あ!ある?良かった 海晴に伝えておくわ うん、分かったわ ありがとう じゃあね」


「あった?」


「あったみたいよ、家の玄関の棚に」


「良かった…焦った、無くしたかと思った」


「家出る時に無意識の置いたんじゃない?良かったわね、天晴が迎えに来る時持ってくるって」


「そっか、助かる」


携帯を無くした訳ではないという安心感と共に真雪に連絡を取れないという少しの不安を胸にこの後の数日間を過ごした。















「…くん!彼方くん!」


「あ、はい」


呼ばれている声に気づかず肩を揺すられてやっと気づいた。

咄嗟に返事をして俺を呼ぶ声の方に顔を上げると眉を八の字にさせ心配そうな顔をした店長が立っていた。


「大丈夫?体調悪い?」


「あ…いや」


「しんどかったら帰っていいんだよ?」


「大丈夫です、すみません」


そう言うと店長は困った様に笑って俺の肩をぽんぽんとリズム良く叩いて去って行った。

気を使わせてしまった。最近はバイト帰りに変わらず誰かの気配を感じる。いつも頃合いを見て撒いて家に帰るのが日課になっていた。今日も上手く撒けるだろうか…。さすがに連日は心身ともに疲れる。恐怖心が無くなった訳では無い。毎日震えと恐怖でいっぱいだ。早くどうにかしないと…。そんなことを考えていたら外は暗くなり退勤の時間を迎えた。


「お疲れ様でした」


「お疲れ様、気をつけて帰ってね」


店長の優しい笑顔に触れ少し心が和らいだのもつかの間。これから恐怖の時間が始まろうとしている事に身を震わせた。


「……っ」


店を出ると人の気配はなかった。これはいつもの事だ。家に帰る途中から気配がする。誰かに付けられている。だから今日もいつも通りに角を曲がった瞬間走って…


「捕まえた」


「…ぇ」


そいつは真後ろにいた。

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