第32話
ジャニクが私の部屋の扉を押し開いて突撃してきた日に、全ては始まった。
何事かと、アニメを止めて彼を見る。
「なに?」
慌て過ぎていて、なにを言っているか分からないよ。
よくよく聞くと、どうやら見始めたアニメについて話している。
「あー。それか。うん。名前だけ知ってる」
「えっ?知ってるんだったら紹介しろよ」
早く教えてほしかったと拗ねた。
拗ねないでよ。
「落ち着いて。落ち着いて」
彼が騒いでいたのはカンタム。
機動の戦士のアニメ。
このアニメはゼクシィで再現性が高そうで、微塵も存在を認知させなかった。
あれを話したらどうなるかくらい、さすがの私も分かる。
皆欲しがる。
皆作りたがる。
大統領が飛び上がり、作る。
作ったら流行る。
私の周りはカンタムだらけ。
完了。
ただ世界観的にゼクシィがカンタムになるだけ。
「カンタムは、うーんと、個人で楽しもう?」
「なっんでだよ!?大統領にも教えたい!」
「大統領に教えたら星全体に広まるし」
「広めたいからアニメを仕入れたのになに、言ってんだ?」
「広めないほうがいいアニメもあるかも」
「そんなん存在しないだろ?今更怖気付いてどうした?お前変だ」
(う)
非常に気まずい。
カンタム放送したら、絶対にブームに火が付く。
かなり強火。
(諦めさせるのは無理そう)
「大統領ー!」
「大統領にはシーッだから、大統領には言わないで」
走り出すジャニクを追いかけるが、追い付けるわけもなく、走り去られる。
うう、早い。
「待って、待ってえ」
大統領邸まで向かう頃には大統領達がカンタムに異常な興奮顔ではしゃいでいた。
両手を上げて「かっけえ」とお祭り状態。
「あー、もう、無理」
膝を付いて、がっくりとなる。
敗北にぬるい風が私を慰めた。
今現在、リーシャはカンタム飛び交う外で肉まんを頬張っていた。
もぐもぐ、美味しいなぁ。
この前までタケコフターをつけた人達が飛んでいたのに、皆、もうカンタムしか乗ってない。
大統領は見事に機体を再現して作り上げた。
ゼクシィの開発部門、作品の完成度が凄い。
「リーシャ、乗らなくて良いのですか」
横でアルメイが豚まんを食べながら聞いてくる。
「乗らなくていいかな」
「大統領がリーシャ特製のカンタムを作ってくれたのに、勿体ないですが」
「勿体なくて、良いよ。うんうん。良いよお」
私が乗るとカンタム乗る民になっちゃう。
「ジャニクは楽しそうで、なによりかな」
「あの黄金のカンタム、大統領ですよ。やはり一目瞭然です」
金ピカカンタムの乗り手は大統領。
「地球の人に見られたら、どういう反応になるんだろう」
って、考えるまでもないか。
地球の人も乗りたいコール一色になるだろう。
2人で肉まんを食べていると金ピカカンタムがこちらに降りてくる。
護衛の人達が後ろから来るので、居たのだと気づく。
「やあやあ!リーシャくんにアルメイくん!どうしたんだい二人して。美味しそうなものを食べているね」
こんな風に食べ物を褒める時のこの人は100の確率で食べたがった時。
彼らに肉まんを渡す。
「これは?」
「肉まんです。ふかふかもちもち、じゅわりな食べ物です」
全部擬音でも、通じる。
きっと食べたらわかるよ。
して、反応やいかに。
「なんっだこれは!うっまああい」
大統領は吠える。
リーシャはにこりと笑みを浮かべながら、感想を噛み締める。
そういう反応になるのは分かり切っていた。
「大統領カンタムにぞっこんですね」
「カンタムはロマンだよ」
大統領がいきなり語り出した。
「流石、大統領分かってる」
横からジャニクが魔法通信で割り込んでくる。
「うん。大統領はアニメファン」
アルメイもカンタムの素晴らしさを理解している。
最近は義手について研究所に作れるかと通い詰めていたから、息抜きになっているのかもね。
義手はさ、ほら、アニメの影響だよ。
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