第壱章/ようこそ――《早喰い》の世界へ!(2)

「な、何のことだか……」


 店員は落ちつきがなくなっていた。


 何かを隠しているのは、皺だらけの顔の表情から見ても間違いはなかった。


「ここで待ってると《口利き屋》ってのが声かけてくんでしょ? ちゃんとネットで調べたんだから! いいから教えなさいよ!」


「ジュリア、もう少し、いいかたを……」


 口を挟んできたのは、ジュリアと呼ばれた女の、連れの青年だった。


 歳は彼女と同じで、美形でもあった。


 細い眉に涼しげな眼で、鼻筋も通っていた。背も一八十センチと高い。


 が、どことなく気弱げな印象があった。


「うっさいわね! あんたは黙ってなさい!」


「ご、ごめん……」


 はたして、ジュリアの剣幕に、叱られた犬のようにうなだれてしまった。


 ロック。


 それが彼の名前だった。


 つきあっているのだろう、ふたりの右手薬指には、銀のペアリングが嵌められていた。

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