第壱章/ようこそ――《早喰い》の世界へ!(1)

「ねぇ、《早喰い勝負》を見たいんだけど」


 公けに、口にだしてはいけない言葉だったらしい。店内は咳をするのもはばかられるような、いやな沈黙につつまれた。


 新宿は歌舞伎町の裏通りにある、小さなラーメン屋だった。昼だというのに薄暗い店内は、客入りも少なく、うらぶれた雰囲気だった。


 もっとも――今世紀初頭に起こった世界規模での大恐慌の後遺症で、今は世の中全てのものがいたのだが。


「だから、《早喰い勝負》を見たいんだけど、って聞いてんだけど!」


 注文を取りにきた年配の女店員に、その女はいらだちも隠さず同じ質問を繰り返した。


 美人だった。


 しかも二十歳と若い。


 眼はふたえで鼻は高く、やや厚ぼったい唇が、服を着ていてもわかるほど豊満な胸とともに、性的な魅力を発散させていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る