十日夜の月

薬を下さい

誰かが乞う

薬をください

誰かが縋る

でも、差し伸べられる手はない


月で薬を作っているウサギたちは

誰に渡すのか

神様はもう、どこにもいないのに

渡したかったはずの誰かはもう――――


「おとうさん」

子ウサギが泣いた

動かなくなった父ウサギに縋って

「おとうさん」

冷たくなった父ウサギに寄り添って


しんしんと降る粉雪に埋もれて

真っ白な世界を染める紅


あたたかったはずのそれは

雪に埋もれて冷えていく


失われた温もりに縋って縋って

それでも零れ落ちていく

掬い上げた水のように


救いはないのに

それでも縋りついている

大事なモノは奪われた


月は歩き出す

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