10 フローラル・エスティス

【前書き】

話数まとめました。すみません

相当、文字数多くなります。

読んで頂けたら嬉しいです。

この回の終わりが、第一章完結となります。

ここまで長くなってしまいましたが、ルディが今後どのようになって行くのかしっかり描かれてから完結となり、第二章に突入します。

ちなみに、冒険者ギルドにはルディは加入しません。

後は、以降読んでみて下さい。

◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆

 

 


「……ドッンンン!!」


 赤毛の少女はルディの胸ぐらを掴み、壁に勢いよく押し付けた。

 先ほどの表情を一変させて、これから怒りの咆哮を叫び出す。そんな赤めた顔をしてルディを睨み付ける。


 そんな行動に出た少女の意図が理解出来ずに、ルディはただ混乱するしかない。

 その二人の経緯いきさつに遅れを取って、はっとレティは再び傍観する。

 レティの手は名残を残したまま、繋がれたルディの手を離した。


 ――数百年振りに感じた人の温もりが、無理矢理レティの手から離れていく。


 酒場を通り過ぎる人だかり。

 

 脇目を逸らして、二人のやり取りに目を奪われる人の群れ。


 そんな状況すらもさて置き、続ける少女である。


「ねえ!あんたやっぱりルディよね?間違いなく、ルディよね?誰と来たの?誰に連れてこられたの?私の親?私を連れ帰って欲しいとかなんか頼まれてここに来たの?……どっち?答えて!!」


 ……えっ?


 まるで一方的に言われて、ルディは頭が追いつかない様子である。

 だが、やはりこの声はフランだとそう確信に至るのだ。


 どこか懐かしい感じを受け取るのだが、数年経ち薄れた記憶を思い出しては、どこか変わってしまったようだと悟る。


「……ううっ、離せよおおっ……。連れて帰るってなにいってん……だよ。何も音沙汰すら無かったくせに……。俺に何が……あったか……しら……」


 唐突に受けたフランの怒号に、何故か分からぬが沸々と怒りが込み上がって来た。


 ――そういうとこは、まるで変わってないじゃないか。


「本当の事言いなさいよ!ここに誰と来たの?」


 フランはさらに追い討ちをかけて来る。

 が、ルディはフランの手を払い除けて、声を荒げて切り出す。


「何のこと言ってんのかさっぱり分かんねえよ!久々に会ったのに、いきなりなんだよっ!」


 そのルディの声にはっと我に帰ったかのように、込み上がってた疑念を脱ぎ捨てて、次第に冷静を取り戻す。


「……って事は……。ルディひとりで来たって事?…………ごめん」

 

 いきり立っていた声にも、落ち着きが伺える。


「…………うん。いや。良いんだよ」


 短く答えて、小さく頷きながら口にしたルディにも、どこか安心した様子が伺えた。


 少しの沈黙が続いた後、バツ悪そうにしているフランから、この空気を変えるかのようなトーンで切り出された。


 まるでそれは、再会を心待ちにしていた。そんな表情に変わっていた。


「……私てっきり。……久々に会えたんだもん――」


 そう言い残して、ルディの手を取り酒場の中に入るよう誘う。それに抵抗する事なく、身を任せるようにフランについて行く。

 そしてルディはじと目をして、ふくれっ面をするレティの腕を引っ張る。が、じろりと強い視線をルディに送ってから、その手を払って後に続いた。


 酒場の扉に『冒険者ギルド』と書かれいるのに目を奪われる。

 

 こうして三人は酒場へと入って行く。



◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆

 


「……アレク……すまない。この先、俺は死ぬかもしれない」


「ふん。何言ってるかしら。今や剣聖となった……間違えたのよ。創剣者ともあろう奴が何言うかしら」


「……ふっ、お前ならそう言うと思ってたけどな――」


「ほんと、訳がわからないのよ。あんたはこの世界の英雄……、になったかしら。そもそもあんたが死んだら誰がレティに……美味しいお菓子と……わわあわあっ……面倒見るのかしら」


「アレク。悪いが……俺はお前を次の誰かに託そうと思う」


「うううっ!このニンゲンっ。レティを創っておいて何ほざくかしら。あああぁ!もうぶっ飛ばしてやるのよお」


「…………ふふ。アレク……いや、本来の名、神鎚ヘファイトス。再びオマエの前にくる『そいつ』にお前を……お前の力を――」


「もう良い加減にするのよ。真面目に湿っぽくて身体中かゆくなるかしら」


「……俺が英雄……かっ。人の争いの上に平和は無い。平和なんて無かった……。争いは争いしか生まなかった――。俺の力を恐れ、憎み……人は俺を殺そうとするだろう」


「ふん。まるで言ってる事が聖人並み。かしら。でも……置いてけぼりは嫌なのよ。レティは、レティは。……レティは死ぬを許されていない存在かしら」



 ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆



『加護の儀』を終え、その場を後にして去って行ったルーデン・アルフォンス の後ろ姿を、気にも留めずに卑下して貶める目でぎろりと睨む弟、シオールであった。


 このような不遇でしかないルーデン。を、兄と仰ぎ、陽の当たらない影として歩んで来た十年と余年。


 双子の弟――。


 双子と言えども、腹から出たのがほんの数分遅いと言うだけで、弟だと言われ。家の中ではもはや幕の外に送り出された。


 この家の跡取りだと?

 ――程々にしろよ!


 たかが、数分俺より先に産まれただけのカスがっ――。


 貴様に何が出来る!


 ふっ。この上、下級職とは。

 ――これで跡取り、次期当主。聞いて呆れるわ。


「父上。ルーデンを追放した今、このアルフォンス家を継ぐのはこのシオール。との事で宜しいんでしょうか?父上の先ほどのお言葉……そう受け止めも?」


「……ああ。シオール、お前しかおらぬ。ルーデンは下級職の鍛治師、訳の分からぬ鑑定……もはや彼奴あやつはこの家に相応しくない。シオール!現当主である私が今、これよりお前がアルフォンス家の当主として認める。」


「はっ!有り難くその命、付き従わせて頂きとうございます」


 ……彼奴あいつをたかだか、追放の身なんかで終わりにしとくものか!


 この座をやっと、やっと掴み取ったのだ。


 影でしか無かった俺に幸運が押し寄せて来た今――。


 国外追放にして、一生この王国に出入り出来なくさせてやる。


 いや、彼奴の行方を探し出して、捕らえてそのまま斬首かまたは極刑にしても構うまい。

 一生、牢獄にぶち込んでやっても良い。


 兄、ルーデン。

 

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――。


 殺してやる。

 


◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆




「私は冒険者歴二年目を迎える、B級ランクアップ目前のC級冒険者、 フローラル・エスティス 。年齢十七歳未だ独身……、只今、冒険者なら誰もが憧れる『ヴォルクス製』の武器を買うため大大大大絶賛、貯金ちゅうううう…………って、自分で言ってて悔し過ぎる。……うううぅっ、早く手に入れたいいいいぃぃぃ!!!」


「――カランカラン」

 

 ドアベルの音が工房内に響く。


 フランは『マスター・ヴォルクス・スミス工房』の扉を勢いよく開けた。


 そう、『マスター・ヴォルクス・スミス工房』通称 『ヴォルクス製』の武具は冒険者たちや騎士たちなら誰もが憧れる武具生産メーカーである。

 そして、『マスター・ヴォルクス・スミス工房』の本店を訪れて、毎朝毎朝ショーウィンドウに飾られている武具を眺めるのが、この フローラル・エスティス の習慣であった。


 工房の一階は販売カウンター、奥には工房が広がる。

 二階は事務所、三階には新人鍛治職人たちの工房。それが四階にも続く。


 一階にある工房は、『マスター・ヴォルクス・スミス工房』で認められた一握りの職人のための工房である。


 いわば、そんな一流鍛治職人の作業風景を敢えて、来客に見せながら販売すると言う営業方法を取るのだ。

 

「ねえ、また赤毛の子来てるわよ」

「あぁ、フランちゃんね。なんかお気に入りの『ダガーナイフ』があるらしいよ」


 カウンターにいる工房店員のお姉さん二人が、フランの様子を見ながら、本人に聞こえるか聞こえないかくらいの声量で話しているところだ。


 このところ毎日通っては、同じ『ダガーナイフ』を眺めているのは、工房店員誰もが知っている様子だ。


 ショーウィンドウに顔を押し付けてそれを眺めては、「よしっ、今日も頑張るぞっ!」とガッツポーズをしてから、冒険者ギルドの依頼先に向かうらしい。


 それが続き、フランの事が店員の中で噂になって来た頃である。

 

「あらっ……ふふふ。よくまあ、こうして毎日続くもんねえ!?飽きないのかしら。買える日はいつになるんだか……?」

 

「あらぁ、フランちゃんもう少しで買えるって、この前言ってたわよ!もしかしたら、今日当たりにでも――」


「パンパン」

 フランが頬を手で叩いて、気合を入れている。


「よしっ、今日もいくかあぁぁっ!!じゃっ、行って来ます!」


 と、言うなり、ショーウィンドウに向かって手を振るのである。


 そこからカウンターの前を通り越して、工房を出て行く。


「またねえぇ!フランちゃん。気をつけるんだよ」

「いつ頃買えそうなの?」


 工房を後にするフランを呼び止めて、カウンターにいる工房店員が話し掛けるところだ。

 その声に反応して、満面の笑顔を向けて応える。


「今まで頑張って来た甲斐もあって……なんと、今日依頼行って報酬貰ったら、買えそうなのおおおお!!」


「あらあ!!ほんとおめでとううう!」

「あらあら……やっと買えるのね」


 フランはそう言って、工房店員に「行って来ます」と軽くお辞儀して、手を振り工房を後にする。


「よっしゃああああぁぁぁ!!やっと今日買えるぞおおお!!さあぁて、今日も依頼行きますかぁ!?」


 この数時間後、やっとの思いで『ヴォルクス製』の『ダガーナイフ』を買えたのだが――。


 フランのテンションは絶頂期を迎えていた。

 工房から出てきたフランは大事そうに、『ヴォルクス製』のさやに入った『ダガーナイフ』を抱えている。


 いかにも高級品だと分かる、重厚感溢れる鞘に仕舞われている『ダガーナイフ』を取り出し、目を輝かせてそれを見つめる。


「やっと、やっと手に入ったわああぁ!!念願だった『ヴォルクス製』の武器。あああぁぁ!誰もが憧れるって言う……感激!感激だわああぁ!試し切り、試し切り、試し切り行きましょおおおおお!!」


 大声を叫びながら、『ユスラム』の門の方へと走って行くフラン――。


 この後、フランはある人物と数年ぶりの再会を果たす事になる。



◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆


 


  俺とレティはフランに『冒険者ギルド』と書かれた酒場に入れと誘われ中に入って行くと――。


「いらっしゃいませええ!!……あらっフランちゃんじゃない!?……って、やっと『ヴォルクス製』のダガーナイフ買えたからって、ついさっき試し切りしてくるって出て行かなかった?」


 美人ウェートレスのお姉さんが出迎えたが、何やらフランと面識があるようだ。それになんだか慣れてそうな、そんな様子である。


 ……ヴォルクス製のダガーナイフ?

 まあいっか――。


「まあそうだったんだけどね。……門のところでばったり、昔の知り合いに再会を果たしたみたいな……へへへ」


 フランはそう言うなり、俺に視線を送って見せた。


 それに釣られるようしにして、ウェートレスのお姉さんの視線が俺に向けられる。


「……あっ、あああ!フランちゃんが男連れてるうう!めっずらしいぃぃ!えっえっ、お二人はどういったご関係で――」


 ウェートレスの言葉は、その場を支配したようにこの空間を響かせた。

 すると、酒場にいる連中の視線が一堂にして集まる。


 その時、ロガーが言った言葉「人族は勿論、獣族やエルフ族だっている」をしっかり実感したのだ。


 獣と人間のハーフらしきヒト型生物の姿。獣の姿を纏ってピンと立つ耳、毛皮に覆われながらぶんぶん踊る尻尾。

 見た感じ、幼女みたいな背の低い獣人間ハーフ。

 一見、美人お姉さんなのに、獣耳がお似合いの獣人間ハーフ。

 

 耳が尖り長く、鼻が高いヒト型生物。恐らくこれがエルフ族だと分かる。本でしか見たこと無かったが。

 顔はみんな同じような感じで、もし髪型が同じであればみんな双子。そんな見てくれをしたエルフ族。

 特に、顔立ちも良く美男美女の入り混ざり。


 よく見たら、このウェートレスも獣人間ハーフである。


 ウェートレスの勢い余る言葉から始まって、呆気に取られて今まで気付かなかったが、この酒場はかなり広い。

 木製の丸テーブルに椅子が多く並ぶ。

 その奥にはカウンター席だ。


 酒場の横には併設された窓口。

 そこの壁には『冒険者ランキング表』と記載されて、名前がずらりと並ぶ。

『いちおしS級冒険者』『A級冒険者』など、そして『駆け出し見習い冒険者』と言ったランク毎に分かれた一覧表である。それはなにやら、これまでの功績上位者を振り分けた一覧表らしい。


 その反対の壁には、デカデカと張り出された食事メニュー表であった。


『黒兎の そこは弄っちゃ駄目よ 炙りガーリックステーキ』『冒険者ギルドおすすめ ヒトを駄目にする病み付き外カリ中じゅわユニノーブルウルフのもも肉唐揚げ』

『S級冒険者によって狩られた当店自慢のS級料理人による モフモフウルフと黒兎の粗挽き肉汁まみれハンバーグ』

『金のない駆け出し冒険者に贈る 貧乏飯定食はコレだぞっ!』


 ……うん。なかなかユニークなメニューだな。


「おいフラン!誰だよその男!?」

「フランに男が出来たらしいぞ!?」

「なんだアイツ?弱々しい格好しやがって!」

「見た感じ、良いとこのお坊ちゃんみたいな奴だな」

「お前、どこのギルドに加入してんだよ!?」


 ウェートレスの大きな一声で、連中を敵に回してしまったらしい。注目を浴びたルディを見て、フランは連中たちの声に慌てて否定の素ぶりをする。


「……ハハ……あのね!別にそんなんじゃないから!しっしっ、はい。いいからみんな続けて!!」


 そんな様子を見て、きっとフランと酒場にいる連中たちとはそれなりの面識があるのは確認できた。

 なんとなくだが、この空間がアットホームな雰囲気で覆われて、どこか温もりを感じるのだ。


 だが、俺は思った。


 レティみたいな見てくれは良い美少女を連れていたら、注目を浴びるなと。

 しかし、そんな事は無かったのが腑に落ちない。


 なんたって、俺は勿論だけどロガーだって、レティを見た瞬間口をぽかんっと開けて見惚れていたのだ。

 でもそんな事はなくて、まるでレティの姿が見れていない。そんな感じだ。


 そんな中で注目を集めながら、ウェートレスとフランは慣れた感じで会話を進め、そのままテーブルに案内される。

 でも、案内されたのは二人掛けのテーブルだった。


 ――なんでだろっ?


 そんな驚きを見抜かれたように、レティの『念話』が響いた。不思議な光景であった。確かにレティの姿はすぐそこに居るのに。


 <『防御障壁』でニンゲンの視界を遮ってるのよ。だからレティの姿は連中には見えていないかしら。……見られたら言い訳がめんどうなのよ>


 ……えっ?いつから?


 <……よく分からないけど、まあ分かったよ。確かに見られてレティの事突っ込まれたら厄介だもんね>


 こうして、フランと同じタイミングくらいでテーブルの椅子に腰を掛けると、フランが唐突に俺の方に身を乗り出して切り出した。

 お盛んな胸をテーブルに押し付けて――。


 ほんの少しだけ、そこに視線を奪われてしまった事は内緒だ。


「ねえ!?……さっき、胸触ったでしょ?はいっ!その分しっかり徴収してやるからね。金貨一枚で許したげる」


 そう言うフランの顔はほくそ笑んでいて、まるで茶化しているようだ。

 だけど、そんなフランの表情を見ては、再び懐かしさが襲った。


 それに、そんな事ストレートに言い出されたら、こっちは男だしそれに思春期真っ只中。まあ、恥ずかしいし答え難いし、照れるし。よく分からない感情だらけになった。


 いや、きっとフランは狡猾こうかつだから、それを分かってて言っているのだとは思う。


「……えっ?そんな金持ってないけど」


 きっとそう答える俺の顔は赤くなっていたに違いない。

 そんな俺の顔をじっと見つめながら、諦めたように前に倒された姿勢を直す。


「……ううぅーそっ!嘘、嘘よ!はは、何顔赤くしてんの?やっぱりルディだね!まったく変わってないもん、そういうところ」

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