9 思わぬ再会
◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆
今から数年前のことだ――。
「あらっ、ルディじゃん!?」
「……うん?って、フランか!……あぁ、そっか、『加護の儀』って今日だったっけ!?」
ルディが買い物に行く最中に、声を掛けて来たのは、ルディより二つ歳上の幼馴染 フローラル・エスティス だ。
フローラルの家族からフランと呼ばれているので、ルディも自然とフローラルのことを、フランと呼ぶようになっていた。
そして今日は、このフランが『加護の儀』を受ける日でもある。
それもあって、朝から街中
「ええ、そうよ。でもどうせ三女の私なんて、何もプレッシャーすら無いし、変な期待も無いだろうし……まあ、気楽なもんよ!」
エスティス家は、ここハルバルーン王国にある貴族家の中の一家だ。
ちなみに、アルフォンス家より位がひとつ上の男爵家であり、三女である。
そんな楽観的は事を言いながら、我関さずみたいな表情を浮かべながら、余裕着々といった様子だ。
「はあぁ……良いよなぁ、フランは……。なんも気にしないで『加護の儀』受けようってんだから。お気楽なもんで何よりだよ」
ルディの『加護の儀』は、まだ二年後だと言うのに、長男ってだけで家の期待を一身に受ける身であり、プレッシャーで押し潰される日々。
それを時折、このフランに愚痴るのであった。
それもあってか、少し皮肉を込めてルディが切り出したところだ。
「へへ。良いでしょ?私のこと羨ましい?……って言っても、一応貴族だから既に婚約相手もいるし……、どうせ親が敷いたレールを歩む。ってだけよ」
その婚約相手は、同じく貴族家の次男だそうだ。
「ふぅん?なんだっ!結局、無難に結婚すんだね!?以前は、家出て冒険者として自由気ままにやってくんだ!とか言ってなかった?」
「本当に自分の力で冒険者が出来るなら!……話は別よお。それも今日の『加護の儀』で決まるし……」
男爵家の三女でもあるフランだが、今の家の状況からしてそう思うのは納得出来る。
フランの姉二人は既に、公爵家の次男と結婚したり、同じ男爵家の長男と結婚を果たして、嫁いで家にはもう居ない。
それから、兄が二人いるのだが、その兄二人がなかなか厄介なのだ。
今まさに、その二人でどっちが家を継ぐかで揉めている最中である。
そんな渦中に置かれてしまったフランなら、きっとそう思っても仕方ないだろうと思うのだ。
こうして、ルディはフランの後ろ姿を見送りながら別れたのだが。
後から聞いた話によれば、『加護の儀』を終えたフランはすぐさまエスティス家を出たらしい。
フランの情報はそこで潰えてしまって、今となっては連絡すらやっておらず、行方は知らないままだ。
フランの事で知っている事と言えば――
目立つ赤毛で、当時はショートヘアーだった。
目は無駄にくりくりして大きく、二重。
鼻筋は通っているが、少しだけ特徴のある鼻。
やや大きめなのだ。
可愛いかと言われれば、可愛い分類に入るだろうし――。
性格でもっとも特徴的なところは、口うるさくルディの事をまるで弟のように弄り倒すって部分がある。
良く言えば、世話好きの姉。
悪く言えば、素行がよろしく無い、大きなお世話と小さな親切を足した感じである。
まあ、何かあれば口より手が先に出てしまう、お姉さん肌の持ち主ってところだ。
とは言え、あれから随分会って無いのだから、今どう変わっているのかは分からない。
気になるところではあるが――。
それと、加えて言うなら、少しだけ成長が良いってところ。
歩く度に、男の視線を奪う豊満な胸が特徴的である。
これで性格も抜群に良ければ、何も文句はない――。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆
「こいつら何やってんだ?」
「まあ!?こんな人のいる所でお盛んなこと」
「だぁめっ!◯◯◯ちゃんにはまだ早いのっ!見たらダメよ」
「やだぁ!いくら新婚さんでもねえ!?こんなところで……」
そんな群衆の騒々しい声が混ざりながら――。
ルディの手はあるモノを握っていた。
「…………うっ?なんだこれ……、柔らかくて、それに程よい弾力…………あぁぁ、この感触いいなあぁぁ……ずっと触ってたい……」
まだ気は確かでは無いルディである――。
おもむろにその感触を楽しみ、程よく伝わる温度がとても心地よく。まるで何かに包まれてるような……そんな感じで、意識はまだはっきりとはしていない。
次第に、群衆の声がはっきりと耳に入って来た頃だ。
〈何してるかしら?……この状況的にもはやヘンタイなのよ!女なら誰でも良いのかしら〉
群衆と一緒になって、この状況を見守るレティの姿。
澄まし顔をして、口を尖らせて睨んでる。
意識混濁している中、ルディの頭の中で囁かれる声――。
そして、目の中に入るのは、ルディの身体を押し潰す少女の姿であった。
「……えっ?……誰だろ?……少女?……ってか、今どんな状況だ――?」
状況を整理しつつも、手はどこか吸い付いてくるような感じで、離そうとは出来ない。むしろ、逆に離す気が無いのでは?と疑ってしまう程だ。
ルディの指に力が入って、握ってしまう。
指と指の間にはみ出る『ナニ』かがある。
それを何度か繰り返すと――。
〈そのまま死んでしまえばいいかしら〉
……えっ?
「…………ううぅっ…………」
ルディを押し潰す少女が何やら目を覚ましたようだ。
「…………って、何触ってんのよおおおお!!」
倒れたルディの身体を再び押し倒して、勢いよくその場から立ち上がった少女――。
そして、空の握り拳を作って、それは大きく振り上げられたまま止まった。
その声と衝撃で、ルディは完全に意識を取り戻す。
……えっ?
この声、どっかで……。
群衆を前にして、何が起こっているのか未だ理解していない二人であるが。
レティはその様をただ傍観している。
少しずつだが、群衆の視線はルディたちに向けられているものだと理解し始めた頃。
少女から怒号にも似た声が飛び掛かる。
それと同時にして、ルディの口も開く。
見た事のある、赤毛の頭。
それに、この声――。
声のトーンからしても、きっとあの人だ。
と、確証になる――。
「……ルディ?」
「……フラン?」
それは全く同じタイミングで響いた。
群衆の騒々しい声はまだ止まない。
まるで劇場の中で、これからクライマックスだと言わんばかりに注目を集める。
そんな渦中に置かれている。
それをただ、口を閉ざして傍観しているレティ。
不本意でまったくもって嫌だと訴えかける目で睨みながら、立ちすくむ。
どことなく嫉妬に似ている。そんな様子である――。
まるでスポットライトを浴びた女優みたいなフランが、真っ先に今の状況を察知して冷静になりつつある。
首を横に振りながら、顔を赤めていく。
そして――。
「……詳しい話は後よ!?今はまずここから離れないと!!」
思いっきりルディの手を引っ張り上げて、全速で駆け出す。
「ちょっと!いきなり……なに…………」
ルディはそう言い掛けたまま、傍観を決めていたレティの手を引っ張って、駆け出す。
群衆の目は変わって、まるで珍品を見張るような目になっていた。
フランに引っ張られながらその後を走るルディに、続くレティ。その三人の行動からして、群衆はまるで理解できないといった様子だ。
こうしてルディたちを引っ張りながら大通りを駆けて、どこかに向かおうとしている。
交差する馬車。喚く馬。群衆。
子供の手を引く母親。
馬車。喚き声や怒号を上げる人だかり。
再び馬。
それらを
そんなフランの表情は次第に、神妙な顔に変わって行くのであった。
聞きたい事は山のようにある。
なぜ、王国を去ったのか――。
今何してるのか?
俺には何故、何も言ってくれなかったのか――。
そんな考えが頭を巡る。
「フランだよね?フランに決まってるよお!……ねえ?なんでこんなとこにいるの――」
フランだと確信して、ルディは数年振りの再会でテンションが上がる。
しかし、赤めた顔をするフランの口からは何も出ず。
辿り着いた先は、酒場だった。
そして、フランは酒場の前でピタリと足を止めて、それに続いてルディたちも止まる。
フランはルディの顔を眺めて、何か言いたげな顔をしていた。
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