二倍士は魔力1?!~無能者として放逐された転生貴族四男は平穏に生きたいのに世の中が許してくれません~
神 賢一
無能者、爆誕!!
追放、そして……
episode 0001 死んでしまうとは情けない
大学を卒業後、売り手市場と言われた就職戦線において、悠悟が入社した会社はよりによってドが付くほどのブラック企業であった。
入社一年目から深夜残業は当たり前、労基法などどこ吹く風で土日出勤も頻発する状況。
幸いなのか、残業手当だけはきっちり払われていたので金に困る事はないのだが、それ以前に使う暇も無いため給与振込口座の残高は積み上がる一方であった。
そんな状況の中で悠悟は入社二年目を迎えたが、後輩となる新入社員は一人もいなかった。
つまり、二年目も悠悟が一番下っ端であり、多忙では済まない状態は悪化する一方。
連日の深夜残業と土日出勤で心身ともに疲労困憊と言った悠悟が、自分の部屋である木造アパートに向かって歩いていたその時。
(……あれっ……)
悠悟の視界が歪むと、回転するかのように景色が目まぐるしく変わる。
街灯が、民家の垣根が、歩いているはずのアスファルト道路が、ぐるぐる回りながら悠悟に近づけてくる。
膝と右肩に衝撃を受けた、その時であった。
キキーーーーーーーーッ!!
ドンッ!!ガシャン!!
膝と肩に受けたものと比べ物にならない衝撃が、悠悟の全身を襲った。
悠悟は再び景色がくるくると回る光景が徐々に暗転していくのを、もはや何も考える事もできずにただ受け入れるしかなかった。
「おお、悠悟よ。死んでしまうとは情けない」
(……何だっけ、この台詞……?)
悠悟はぼんやりと眺めると、淡い光に包まれた何も無い空間に、一人の老人が立っているのが視界に入った。
老人は頭頂に髪が無く側頭から白髪を長く垂らし、長い顎髭と豊かな鼻髭を蓄えて、
さながら、悠悟がイメージした神様のように見えるその人は、怪訝な顔で悠悟の事を眺めていた。
「何の反応も無しかよーー!」
いきなり大声を出す老人に、悠悟はびくっと驚く。
「せっかく突っ込みどころしかない台詞言ったのにーー!」
よっぽど悔しかったのか、老人は手にしている杖で地面をガンガンと何度も強く突付いた。
「あ、あのぉ……」
地団駄を踏む老人に向けて悠悟がようやく声を掛けると、老人は悠悟を睨みつけ、その視線に悠悟はビクッと身を震わせる。
「あ、あなたは……誰なんですか?」
淡い光に満ちているが、目の前の老人以外は何も存在していない状況に、唯一の手掛かりである老人に尋ねてみた。
老人は肩を落としてため息を吐き、やれやれと言った仕草をする。
「ワシは分かりやすく言えば、神様じゃよ」
「神様?……神様って、もっと神々しくて高貴な感じじゃないんですか?」
「キサマの想像力が貧相だからワシまで貧相な姿に見えとるんじゃ!!」
自らを神様と名乗った老人は悠悟の反応に激昂し、杖だけでなく足も激しく使って地団駄を踏んだ。
悠悟がぼーーっと眺めている中、暫しの間怒りを発散させた神様は、漸く怒りが落ち着いたのかぜいぜいと息を切らせながら、乱れた長衣を整える。
「それで……ここは……どこなんですか?」
働かない頭で当たりを見回した悠悟は、ごく当たり前の質問を神様に問い掛ける。
終電近くで最寄り駅まで到着し、真っ暗な夜道を自宅に向けて歩いていた事を考えると、いきなり場違いな所に連れてこられたと言う感覚であった。
悠悟の問いに、神様はニヤリと悪い顔の笑みを向ける。
「ここか?……ここは『
どーーーん、とでも効果音が付きそうな様子で神様は杖を差し向けるが、言われた意味が理解できていない悠悟はぼーーっとしたままであった。
暫くの間、悠悟に杖を差し向けていた神様であったが、ろくな反応を見せない悠悟に徐々に苛立ちを覚える。
何も考えていないように見える――実際何も何も考えていない悠悟であったが、痺れを切らした神様は差し向けた杖を更に突き付けて言い放つ。
「ええい!キサマと話してもらちが開かんわ!本来ならある程度の希望を叶えてやるのじゃが、キサマはもう知ったこっちゃないわ!!」
言い放つと神様は杖を高く掲げる。
悠悟と神様以外は何もない空間にもかかわらず、突如として雷光が掲げた杖に落下すると、激しく帯電した神様が光り輝き始めた。
間近で落雷が発生したと言うのに未だにぼーーっとしたままの悠悟は、ぼんやりと雷光に輝く神様を眺め続けていた。
神様は輝き続けたまま、おもむろに杖の先を悠悟に向けると――雷光が収束して一直線に悠悟に向かって飛来する。
(えっ?)
突如として飛来する雷光に、悠悟は何の反応もできないまま捕らえられた。
「あばばばばばばばばばばばばばばば!!」
神様からの雷撃を受けた悠悟は、その衝撃と電流でタコ踊りのように激しく身を躍らせる。
暫しの間身を踊らせた悠悟は、その雷光が収まるや否や意識を奪われ、その場に倒れ伏す。
意識を奪われて暗い闇の中を
這うように、泳ぐように光点に向かうと、徐々に光点は広がっていき、やがて悠悟は光に包まれるのであった。
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