アポロン非感染者の僕

常磐 優希

プロローグ 《シード》

 西暦一九四七年。ある二つの県を中心に異様に五感や知能が発達した子が増え始めた。

 それから時が経ち一九五六年。医学や化学の発展に伴いこの子供たちについても研究された。その結果子供らの中からウイルスが発見された。

 そのウイルスは二〜六歳の子供を中心に感染し、感染したとしても発熱等の症状が見られない特異なウイルス。

 そのウイルスは光明の神。医術の神である“アポロン”と名付けられた。

「ええ、これが中学で習ったアポロンの歴史だ」

 カツカツとチョークが黒板に当たる音はとても心地よいがそれが授業中であると認識させる。

 僕の名前は空条くうじょう凌空りく。このアポロンという五感や知能それから様々な能力を与え発達させる病に感染しなかった非感染者ひかんせんしゃ

 この世に神なる者がいたとしたら僕の設定を考えるのが面倒くさかったのだろう。その証拠に神の名を冠したウイルスに感染していない。

 高校に入学して既に五ヶ月が経過して夏よりかは涼しくなったと思うがまだまだ夏の魔物が後を引いている。

 クラス内でグループが出来ているというのに僕の友達は片手で数えれる程度しかいない。そう、黒板ではなく窓の外を眺めながら思う。

 授業は終わり黒板にはびっしりと白い文字が書かれているが僕のノートには余白しかなかった。

 後で友達にでも頼めばいいか。僕はそう思いながらまた、窓を眺めていた。

「なに窓なんか眺めてんだ」

 声が聞こえ振り向くとそこには僕の数少ない友達が起きていた。

「よっ、凌空」

「おはよう、よく眠れたか?」

「当たり前だ」

 そう言いながら壮介そうすけは親指を立てた。

 彼の名前はたちばな壮介。僕の幼馴染で小学生からの仲。今もこうしてバカ話をする。

 僕が神に選ばれなかった脇役モブなら、壮介は正しく神に選ばれた主役だろう。目立たない茶髪の僕と一際目立つ赤い髪を持つ壮介。目を跨ぐ一本の切り傷。それはある事件で負った傷。そんな傷すらも似合う顔立ち。その紅い瞳に映るのは僕には見えない世界。

 壮介は感染者だ。

 能力の名は紅眼こうがん。その目に映ったアポロン感染者の能力を見る事が出来る。一度どんなものかと尋ねてみたことがあるのだがその時に聞いた話だと空を飛ぶ能力を持った人が居るとしてその光景が見えるらしい。

 そんな顔も良く。運動神経も良くておまけに能力までも強いときた。最強の主人公。そう思う。

「りく、どうしたんだ? そんな俺の顔をジロジロと見て」

「もしかして、俺に惚れた?」と身体を自分の腕で抱き締めながら壮介は言う。

「んな訳あるか、少なくともお前を好きになるのは女子ぐらいだ」

「あ、ちゃんと褒められた」と。少し意外そうな顔を見せる。壮介は僕のことをなんだと思っているんだ。

「だがまあ、りくもモテるとは思うけどなあ」

「バカ言え、アポロン非感染者だぞ? 僕は」

 だから、モテることも誰かから認められる事もない。

「大丈夫だ、能力が無くたってりくの優しさに触れれば誰だって好きになるさ」

「そうだといいな」

 壮介は小学校の頃非感染者だった僕をいじめから助けてくれた。壮介は感染者だろうが非感染者だろうが関係ないのだろう。そういう所も壮介がモテる要因なんだろうと思ってしまう。

「お、そろそろ授業が始まるな。じゃ、また後でな」

「ああ」

 六時間目の授業も僕は一人窓の外を眺めながら終わった。帰りのHR《ホームルーム》も終わり僕は独り帰ろうとした。

「ねえ、りく」

「ん?」

 聞き覚えのある声が聞こえ、僕は後ろを向く。

 同い歳とは思えない大人びた顔立ちと烏羽色の様に艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、そのガラス細工の様に洗練された黒い瞳はどんな宝石よりも綺麗で、きっと、誰もがこんな言葉を漏らすだろう。美人と。かく言う僕も一目見たときそう思ったのだ。

 そんな彼女が僕になんのようか。

 先に言えば告白イベントではないと最初から分かっている。それは、僕が非感染者だからという理由ではなく彼女は壮介と同じく僕の友達だからだ。

 名前は月見里やまなし美穂みほ

 彼女もアポロン感染者。能力は周りには伝えておらず信頼出来る人にのみ話しているらしい。能力名は美貌。それを知っているのは僕が分かる範囲で壮介のみ。

 ただ、勘違いしないで欲しい事がある。彼女の美貌は能力によるものではなく素から美しいんだと言うこと。

 話を戻し美穂は僕になんの用だろうか。

「どうしたんだ? 美穂」

「あのね、ちょっとりくくんに頼みたいことがあるの」

「頼みたいこと?」

 僕は美穂に連れられるままとある空き教室に向かった。時間もあって薄暗く窓からの茜色の日が唯一の光。教室の壁に乱雑に寄せられた机と椅子。真ん中には対面に並べられている机が二つ。それを囲む様に四つの椅子。そして二人の男女が対面になる形で椅子に座っていた。

「そこ、座って」

 美穂に促されるままに僕は見知った男の隣に座り美穂は幼めな女子生徒の隣に座る。

「……なんで、壮介がここに? てか、この子は誰だ」

 僕は斜め前の女子生徒に目をやる。

 すると、壮介は頭にハテナを浮かべていた。浮かべたいのはこっちの方なんだけどな。

「なんだ、りく聞いてなかったのか?」

「聞いてないって言われても僕、なにも言われずここに連れられたぞ」

 美穂にな。と、視線を向ける。が、美穂の反応は予想外なもので、

「そうくん、伝えてなかったの? りくくんに」

「そうくんがりくくんに話すって朝決めたでしょ?」と、美穂は言う。そう言うと壮介は「あ、やべ」と声を漏らしそっぽを向く。

 呆れた様子の美穂はため息をついた後喋り始めた。

「えっとね、この子は藍沢あいざわ咲希さき。二年生」

 ん? 二年生? 一年生じゃなくて?

 藍沢咲希の見た目はカフェオレの様に淡い茶髪に柔らかい印象を与える丸メガネを掛けており身長も小さくそれも相まってとても可愛らしく幼く見える。ただ、それと同時に本当に二年生なのかと思ってしまう。

「えっと、うちの部活のマネージャーなんだよね」

 壮介の所属している部活のマネージャー。つまりは、サッカー部のマネージャーと言うことになる。

「えっと、空条凌空」

 自己紹介をと思い名前だけは伝えると咲希……先輩は頭を少し降ろしお辞儀をする。僕もそれに釣られてお辞儀をする。

 そして、本題に入ろうかと咲希は美穂先輩に促す。

「えっと、最近嫌な視線を感じるんです」

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