第23話 一緒に行ける人は?

 翌朝、セネカとジンを探し、先に見つかったのはすでに探検準備を終え、色々荷物を背負ったセネカだった。


「あらラズ、具合はもう大丈夫なのかしら? 昨夜はレイシーに酒場の二階に運ばれたって言うから珍しく酔い潰れたのかと思ってたのよ」


「……それはないから安心してくれ」


 昨夜のことは思い出したくない。結局あの後レイシーも寝てしまい、何事もなく済んだのだ。朝になり、目覚めた彼に昨夜のことを聞いても何も覚えてはおらず。好きだと言われたことは嘘だったのかと思うと少々残念なような。けれど何事もなくて安堵したような……よくわからない心境だ。


 何はともあれ、仲直りできたのだから良かった。そして目覚めた彼と話したのは――。


『レイシー、俺、あの穴の中にもう一度行く。どうなるかわからないけど、あの中に大地の民の呪いがあるなら、その呪いの元をなんとかしたい。俺の先祖がやったことを償いたいんだ』


 一晩、レイシーが覆いかぶさっていたので、おちおち寝ることもできず、彼の寝息を感じながら、これからのことをじっくりと考えていた。

 結論としては『自分はカルスト家としての務めを果たしたい』と、そう思った。この血筋に原因があるなら、みんなを巻き込む前に正したい。まだ時間があるならば、だが。

 レイシーは『危ないですよ』と咎めるではなく、一つの忠告としてのように言った。


『ラズ様はとても責任感が強い方だとわかっています。でも昨日のように何が起こるかわからない。もっと危険なこともあるかもしれない。そんな場所に本当に?』


『何を言っている、お前が守ってくれるんだろ』


 当然だろとばかりに自信満々に言い切ってみると、レイシーは青い瞳を丸くした。


『お前は俺の世話人だ。いつも俺についてくる必要がある。俺は、まぁ申し訳ないが剣術とか戦う力は何もない。偉そうに発言するしか脳がない。それでも、あの呪いをそのままにすれば、いずれここは全て穴に飲み込まれる。そうすればみんなが……』


 それだけは阻止したい。

 ラズの脳裏に大穴の中にいたフードの人物がよみがえる。亡霊のような、幻のようなたたずまい。呪われているという言葉には重くて悲しみと憎しみが混じっており、聞いていたラズの魂を深く震わせたのだ。あの時は呆然としたが落ち着いた今は申し訳なく思う。

 罪もない方を傷つけて、すまない、と。


『俺が一人になることで俺だけが穴の中に飲み込まれるならいい。けれど必ず俺の周囲にはみんなが集まってしまう。最初は君も関係があるかなと思ったが違うんだ。結局は呪いが、そう仕向けるんだ、俺を苦しめようと』


 なら立ち向かうしかない。その先に呪いの元がいて自分だけの命でなんとかならないかと交渉できるならそれでいい。

 しかしそこまで行くのには自分一人では不可能だ。強い人がいなければ。


『ラズ様……わかりました』


 レイシーはほほ笑みながら、うなずいた。命令を下された世話人として。親友として放っておけない、そんな含みの笑みのような気がした。


『でもあなたの中に人が集まるのは呪いのせいだけではないと俺は思います』


『ん……そうか?』


 レイシーは寝起きの頭を手ぐしで整え、自分のおさがりの青色のジャケットを手ではたき、身支度を整えている。

 その姿を見ながら(昨夜の記憶はないくせに一緒の部屋で一緒のベッドで寝ていたことは詳しく突っ込まないんだなぁ)とラズは密かに思った。

 まぁ、記憶がないと言っているのは彼の気づかいか、もしくはレイシーの羞恥での苦し紛れかもしれないが。


『ラズ様はいつも周りのことを考えています。戦う力がなくてもあなたには人々を惹きつけるカリスマ性があるんです。だから周りも放っておかない……あなたの元に集まりたくなるんです』


 なんだか恥ずかしくなることを言われて『そうかなぁ』と、おどけてみせる。そんな能力はないと思うが、そう思ってくれるのは嬉しいことだ。


『俺は父のやり方を真似してるだけだ』


『いいんですよ、それで……でもそればかりじゃないです。ラズ様はラズ様のやり方でちゃんとやっています。あなたのその誠意、大地の民に見せつけてやりましょう。きっと大丈夫です』


 レイシーの言葉に力をもらい、心が安らいだ。どうなるかわからないがやれることをやるしかない。

 

『じゃあラズ様、まずは仲間集めです。俺だけじゃ心もとないでしょうから、探検に慣れてる方を誘って下さい……あ、魔法使える方ももちろんですけど、ハルーラは自爆可能性もあることは忘れないで下さい』


 サラッと毒を吐き、レイシーは『じゃあ僕は準備しときますから』と言って早々に部屋から追い出されたのは今朝のことだ。酒場でついでに朝食をもらってから、こうしてセネカの元に来たわけだ。セネカに事情を話すと彼女は興味なさげに「ふーん」と言った。


「まぁ、あなたらしいと言えばあなたらしいけど。でもごめんね、お断りしておくわ」


 セネカは拒否の姿勢を見せて「よいしょ」と大きな袋を背中に背負った。


「悪いんだけど、あなたといると呪いの元ばかり出てきて、お宝探しができそうにないから。そう言う正義のための戦いなら、あの筋肉ヒゲを誘ってちょうだい」


 じゃあね、と手を上げ、セネカは優美に歩き去った。残念だが彼女は己のために動く女性だ、それを無理強いするわけにもいかないとはわかっている。


(やっぱりか。ではジンを――)


「おーい、ラズぅ〜おはよ〜さ〜ん」


 のんびり口調は、自分の探している男で間違いない。声のした方を見るとジンはのしのしと地を踏みしめ、歩いてきた。


「おう、あのさぁ、ハルーラを見なかったかぁ……? 実はあいつに変な魔法かけられちまって全然身体が言うこと聞かなくてな……歩くのがやっとなんだよぉ……」


「な……」


 これはまた、期待を裏切られてしまった。

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