第11話
たどたどしい台詞も聞こえたのかどうか。男性はメニューにぎょろりと一瞥をくれると、「アメリカン、あとこのサラダと玉子サンド」とそのまま突き返してきた。
「かしこまりました。アメリカンコーヒーひとつと、こちらのサラダに、玉子サンドですね」
「ん」
「ご注文、うけたまら……まわりました。お待ちくださいませ」
一礼してキッチンに飛び込む。立てない店長にお食事メニューの準備はさせられない。忙しかったランチとはまた違う緊張感に、冷や汗が出てくる。
いつも以上に慎重に焼き上げた卵焼きはうす黄色、しっとりとした食パンをまっすぐに切り揃えて、白いお皿にふた切れ並べる。間違ったところなんてひとつも無い。
一度に持っていくと緊張でひっくり返しそうだったので三往復、ようやくお客さんに出し終えたときには極度の緊張で目眩がした。
「迷惑をかけて申し訳ないです」
店長が弱々しくも微笑みかけてきたところで、張り詰めた神経もすこしだけ解れた。
「そんな、とんでもないです」
それより店長の体が心配ですと言葉が浮かんだのと同時に、店長がゆっくりと落ち着いた声で話す。
「今日は早めに閉めましょう。ここまで残らせて悪かったですね。ラストオーダーのお知らせをしてきてくれますか」
「わかりました」
店内には三組のお客様。三つのテーブルを順にまわり、追加注文もなくほっと胸を撫で下ろしたそのとき。
「これなんだけど」
玉子サンドとサラダを注文したチェックシャツの男性が、ほんのり目を赤くしてわたしを見上げる。
「はい……?」
どきんと音を立てる心臓をおさえてその場に残る。男性はサラダボウルを指さした。
「これ、埃だよね」
「えっ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます