第9話
店長は優しい笑みを浮かべて、わたしをじっと見た。何か言われるのかと思わず身構える。店長は何も言わなかった。
「……さて、と。次のお客様が来る前に、片付けを進めましょう」
「はい」
「私はキッチンを片付けてきますから、まどちゃんはテーブルをお願いできますか」
店長の指示を受けて、片付けセット一式を手に店内を動き回る。
さえこさんはどのくらい具合が悪いんだろう。胃腸炎って、なったことが無いからわからない。早く良くなりますように。
さえこさんが不在の間は、三人でお店を回していかなきゃならない。オールマイティな店長とくるみさんがいるから、大丈夫だとは思うけど……。
よく水気を絞った布巾でテーブルを拭く。きゅ、とよく鳴る音も緊張感をもって響いて、どくどくと心臓は落ち着かない。
……わたしがさえこさんやくるみさんを頼りに思うように、わたしも、二人に頼られるような人になれたらいいのに。
なにか特別な才能でもあったらいいのだけれど、そんなものは持っていない。
ごとん、と遠くで重そうな音が響く。店長がキッチンを片付けてくれているのだろう。
……せめて、もうちょっと力があればなあ。重いものを持ち上げるとか、そういう役にでも立てたらいい。
拭いていたテーブルクロスの隅がべたついているのに気が付いて、もう一度丁寧にぬぐった。他のテーブルも心配になって、もう一周、拭きにまわる。
「……ちゃん、」
あ、紙ナプキンが切れてる。裏から新しいのを取ってこなくちゃ。
「……まどちゃん、」
「はいっ!?」
小さな小さな声で名前を呼ばれた気がして店内を見回した。誰もいない。いるとすればキッチンだ。
慌てて裏に回って、飛び込んできた店長の姿に息が止まる。
「いっ……ててて、あっ、まどちゃん、すみません、」
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