丁寧に、目立たないように
第1話
一枚、二枚、三枚。
間違いなく三枚ずつだ。かっこ悪くずれたりしないように、まっすぐ上に重ねる。そしてその横に白いクリームと、つぶつぶ苺のジャムをひと掬いずつ。……できた。
ふう、とマスクの中で息を吐いて、念のためもう一度。一枚、二枚、三枚重ねたホットケーキの大きさにばらつきはない。ホットケーキの右側にはクリームとジャムの入った白いカップが一つずつ。これと全く同じホットケーキのプレートが右側にもう一枚。二名でご来店のお客様の注文だから、一緒に運ぶことになる。大きさや完成度に違いがあれば問題になりかねないから、こうしてキッチンでの確認は何重にも――
「……ねえ、いつまでチェックしてんの」
「あ、」
声に驚いて振り返ると、ホールスタッフのさえこさんがドアに寄り掛かってこちらを見ていた。呆れ顔をしている。
「早く持って行かないと冷めちゃうでしょ」
「そ……うですよね。ごめんなさい……。これ、お願いします」
「はーい。よいしょっと」
もっともな言葉に項垂れる。差し出した二枚のお皿をひょいと持ち上げて、さえこさんは颯爽とキッチンを出ていく。
お待たせいたしました、と明るい声がお店の方から響いてきて、わたしはほっと胸を撫で下ろした。
「大丈夫だった……よね」
「大丈夫ですよ。もちろん」
またもドアの方から飛んできた声に慌てて姿勢を正すと、「何を緊張してるんですか」と笑われた。
品よくセットした白髪交じりの頭に、明るいトーンだが落ち着いた声。茶色いエプロン姿の様になる中年の男性が、じっとこちらに目を向けている。
「店長」
「まどちゃんは、もっと肩の力を抜いていいんですよ。入ってからまだ一か月なのに、覚えもいいし、盛り付けも綺麗だし。上出来です」
「……」
何も言えずにちょっと頭を下げると、「ふふ」とまた上品に笑われる。
「ここだけの話、サエコはホールはそつなくやってくれるんですが、料理も皿洗いもてんで上達しなくてね。それで新しく募集をかけた。私はまどちゃんの丁寧さを買っているんですよ。だから、自信をもって」
「……はい……」
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