凄まじい作品でした。
読了後ひと晩経ちましたが、やるせない余韻がずっと後を引いています。
本作は連続殺人犯を主人公に据え、彼の幼少期から60代までの半生を追っていく、一人称視点の倒叙型ミステリです。
主人公・斬平は、武庫畑家という名家の屋敷に出入りする庭師の息子。彼の人生は、物心ついた頃から愛に恵まれないものでした。
母親から愛されなかったことが、女性に対する歪んだ感情の萌芽となり。いずれ雇い主となっていく幼馴染との立場の違いを突きつけられ、その許嫁の女性への歪んだ恋慕を抱き、彼の中の偏執はいよいよ膨れていきます。
ある出来事がきっかけで幼馴染を手にかけた斬平は、罪を隠しつつ生活し、さらなる殺人を繰り返す道を歩むことになるのです。
時代は昭和から始まり、平成、そして令和の近未来へと移り変わっていきます。
その時代ならではの空気感や言葉遣い、デジタルデバイスなどリアリティがあり、斬平とともに長い時を生きている感覚を味わえます。
そうしていくうち、普通なら理解も及ばないような連続殺人犯に、思わず感情移入してしまうのです。
三世代に渡る武庫畑家の女性たちとの因縁が見どころです。
夫を殺した犯人を追う紘子。
両親を殺した犯人を探す晴嵐。
県警のバイトで偶然に知った未解決事件を調べる春。
特に、自分を父親と偽って育てた春との関係性は、これまでの因果と深い業を感じるものでした。
罪を重ね、名前を変え、周囲を欺き続けた孤独で哀れな男が、最終的に得たものは何だったのか。
『だれもが愛されていた』というタイトルに込められたものが、ずっと重く胸に残ります。
これを無料で読んでしまっていいのか。素晴らしい作品でした。
決して軽くは読めない物語ですが、読み応えあるミステリをお求めの方に全力でおすすめしたいです。