第十九話
腕の中で秋穂が居る。
秋穂の体温が好き、秋穂の匂いが好き、声も性格も一途なところも頑張りやなところも好き。そして、私のことを想ってボロボロになっても私のことを想って別れようかって言うところも本当にムカつくけど好き。本当に好きならどんなになってもそんな言葉言って欲しくない。私のこと閉じ込めてでも独占して欲しい。
そう思ってしまうことが私が子どもなのかもしれない。
「どうしたの?」
秋穂が言う。
彼女はもう下着をつけていた。身体には私が沢山つけた痕がある。
好きな人を食べてしまいたい。あの欲望って好きだから噛み付いてみたいとかそういうのじゃなくって、キスやセックスの延長線上だと思う。
誰のものでもなく自分のものだという欲求と他の人に渡らないようにする欲求。
でも、本当は痛い想いさせたくない。それでも落ち着かない欲求。結局キスマークなんか着けても安心しないんだ。心ごと愛していないと満たされない。同性同士でもそれは可能だけど、そういうのは眼には見えない。異性同士なら子どもという形でそれが本当に命を持った証として生まれてくる。それも、好きな人の身体の中から生まれてくる結晶。
異性愛者は本当に羨ましい。子どもが生まれるから。
お互いに女なのに子どもが生めない。結局精子がないから。でも、やっぱり精子バンクの事はその精子はどうしても他人のもので、私のものでも秋穂のものでもないから、それで生まれた子をちゃんとししていられるとは思うけど、でも、ちょっと自信がなかった。心の何処かで名の知れない人のこと言う感覚がずっと付き纏う。
日本の法律ではその他人が父親に成る。
仕方ないじゃんとレズビアンでもない議員が言う。
仕方ないじゃんとゲイでもない議員が言う。
うん、仕方ないよね。確かに仕方ない。
あの人達は普通の人でちゃんとした常識の人で私達はあの人達の慈悲で普通の世界に異物として生きている異物者だから。
この世界は常識的な人の世界で子を作れない異物者の世界じゃない。
だから悩む、どうしても、時折子どもが欲しいと思ってしまう。でも、それはきっと子どもが不幸なんだ。結晶として生まれた子ども、愛の証として生まれた子ども。結果そうだとしても、その証明として子どもが欲しいわけじゃない。頭ではそうだとわかっていてもどうしても心が納得していない時があって、大人としてそんなのが正しい事じゃないとは分かっている。
分かっていながらやっぱり心が何処か納得していない。
でも、子どもが欲しいから秋穂と別れたいかと言うと、そっちのほうが心がずっとずっと納得していない。だからこの心のモヤモヤは一時的な事。
秋穂はどうやったとしても男にはなれないし、私もどうやっても男にはなれない。
だからこの願いはずっと叶わない。
何処か遠い未来、女が男になれる日が来たとしたら、その時は私は異性としてもう一度秋穂と結婚したい。そうしたら、ちゃんと血の繋がった子どもが生まれる。
結局、私は自分と同じ半分の遺伝子を持った子が欲しいんだ。
いつか叶う未来が来たら良いなと思いながら、その日の夜、私は秋穂に抱きつきながら眠りについた。
「大好きだよ秋穂」
「うん、大好きだよ朋ちゃん」
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