1—14 盾だけは立派

「怯むでない、君達! ここは、この私ボイスが相手になろう」


 そこに現れたのは、お腹がポッコリと膨れていた男だった。


(そんなに甘くはないか。なんか、イキイキした男が来たよ。一見、悪い人には見えないな。でも、この惨劇さんげき加担かたんしているんだよね?)


「ボイス殿!」

「例え、彼女が強敵でも、我が軍の試作品しさくひんである、この盾に前では、歯が立たないであろう」


 ボイスと名乗るヴァルダン側の人が、盾をカチュア達の前に見せ出した。


(盾自慢かよ)


 すると、ヴァルダン兵がボイスと呼ばれた者に近づき、耳元でこっそり、何かを伝えているようだ。


『何話しているんだ? 私には聞こえないんだが。カチュアは聞こえる?』

「え~と~、なになに……『武器は一般のものなので、そこのところは注意して下さい』って、聞こえるわよ~」

『なるほどね……って! 武器は普通かよ!? 盾だけ立派って、中途半端ちゅうとはんぱだな!!』


(とは、言うものの。あの盾、見る限り、鉄でできている感じはしない。特別制なのは確かだな。でも、何だが、禍々まがまがしさを感じる。何でだろう?)


「いざ!!」

 

 ボイスは腰に掛かっている鞘から剣を抜いた。


(確かに、武器の方は普通の鉄でできていそうだ。盾と比べると……うん、普通だな。予算不足よさんぶそくか? 軍資金ぐんしきんが足りなかったのかな? 足りないのに他国に攻めに行ったのか? 計画性なさ過ぎるな)


 ボイスは、カチュア目掛けて、剣を振り下ろす。しかし、その攻撃をカチュアは、軽々しく剣で受け止めた。その後は軽く、ボイスを後方に押し出した。ボイスが怯んだ、その隙をついてカチュアは、居合切りを行う。


 しかし、ボイスは素早く盾で構える。


 パッキーーーーーン!!!


 カチュアの剣が盾に当たってしまったために、カチュアの剣が折れてしまった。


(やはり、盾自慢することだけあって、あの盾は固いわね。一筋ながらには、いかないか)


「この盾は、ただの盾ではない! 盾は衝撃を受けると、倍になった衝撃波が放てるんだ! この盾がある限り、其方の攻撃は通用しない!」


(それだと、盾だけしか、取り柄がないみたいじゃないか。実際にそうだけど。確かに攻撃が通用しなければ、盾としては性能は高いか)


「この剣じゃ、ダメかしら〜? じゃあ~。こっちの方がいいかな〜?」


 カチュアは、落ちていた折れた刃を拾って、ボイスに目掛けて投げつけた。ボイスと言っても、真正面に盾目掛けて投げるわけではない。ボイス本体だ。


 カキーーーーーン!!!


 ボイスの体に命中したが、体に刃は通らなかった。


「は! は! は! 私の体を狙えばいいと思ったか? 残念! この盾を装備すれば、私の体は、勇能力の障壁のように守られる!」


(それ、盾の形にする意味なくねぇ? そんな特殊効果を付与できるなら、剣の形でも良かったのでは?)


「困ったわ〜」

『全然、困ったような言い方ではないが、厄介なのは確か。あの絶対防御ぜったいぼうぎょをどうにかしないとだ。恐らく、あの盾がある限りは本体には、ダメージを与えられないね』

「ねぇ〜ナギちゃん。衝撃って、どういうの?」

『ん? 記憶のない私に聞く? でも、私が失った記憶はエピソードで、知識はそれなりに覚えているよ。衝撃は確か、強い力を物か何かで、ぶつかった時に発生する物だったかな?』


(とは言ったが、私の知っている衝撃は、本の中に出て来るものだし。何の本かは、覚えていないけど)


「そっか〜。じゃあ〜、壊す時に、どのタイミングで衝撃が出るの?」

『難しいね。やっぱ、壊れる瞬間? 壺とかだと、割ったら破片飛ぶし』

「そっか~。分かったわ~」

『何が分かったんだ?』


 カチュアは瞬間移動しゅんかんいどうしたかのように、ボイスの目の前に立っていた。一瞬の内に近づかれたため、ボイスも動揺していた。


 そして、カチュアはボイスの盾の上部分を握る。そして、その手を後ろの方へ引く。


 バキーーーーーン!!!


『えーーーーー!!!』


 剣を通さなかった盾が、握力で簡単に割ってしまった。


(自力で壊わせるのかよ! 剣使うよりも、体術で戦った方がいいのでは?)


「!! 馬鹿な!」


 驚いている隙に、ボイスの腹部分に拳を入れる。殴られると同時に、ボイスは吐血とけつした。


 盾が壊れたことによって、盾によって守られた身体に通るようになったしまった。


 そして、ボイスは腹を押さえながら、倒れていった。


「うう! やるな!」

「もう、引いて! これ以上戦う必要はないわ~」

「私の不運は、あの国に生まれたことか」

「生きているでしょ。生きていれば、大変なことはあるけど」

「失敗は許されないんだ。ヴァルダンとはそういう国だ。どうしても、王や将の者には逆らえない」

「そんな〜。あなた悪い人ではないのに〜」

『でも、こいつは、この虐殺ぎゃくさつ加担かたんしたのでは?』

「ん?」

「そうだ。と言っても、私は後から来たんだ。この村の虐殺に加担していなくとも、コルネリア兵と交戦した。それに、私は昔よりも好戦的こうせんてきになってしまった。戦わなければ落ち着かなくなってしまった。虐殺には反対だが、戦う欲求には勝てなかった。以前はこんな感情はなかったはずなのに、どこでおかしくなってしまったのか私は」


 観戦かんせんしていたヴァルダン兵はざわつき始めた。


「嘘だろ!? あの盾を壊しただと!?」

「逃げよう!! 俺達には敵わない!!」


 ヴァルダン兵は引いていく。


「あ! こら、待って! そんなことしたら、処刑しょけいされてしまう!!」

「知るか! もう、あの国から出るしか、生き残れねぇよ!」

「始めっから逃げるべきだった!」

「代々、王の思想しそう無茶苦茶むちゃくちゃなんだよ!」


 逃げていく兵を、必死に止めに入る者がいるが、何人かは逃げていった。


(それにしても、処刑って?)


「終わりましたね」


 隠れていたエドナが出てきた。


「はぁ、はぁ……」


 戦い疲れたのか、カチュアの呼吸は荒々しくなっている。


「カチュアさん? 大丈夫ですか?」

「ええ……それよりも……この感じ……まだ、戦いは、終わらせたくないようね~」

「え?」

「十本ぐらいあった剣が使えなくなっちゃったわ~。あと二本しかなわ~」


 敵の半数が逃げ、残りも戦う気力がなくなったにもかかわらず、カチュアは戦いの警戒けいかいを解かなかった。


 カチュアの勘は正しかった。まだ、戦いは終わらなかった


(やっぱりおかしい。この壊滅した村に入ってから息苦しくなっている。カチュアの中にいて、特に戦い参加していないのに)

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