1-15 非道な将
ヴァルダン兵達が、カチュアに怯えながら、どんどん逃げて行く。それも、カチュアによって深手を負わさらて歩くのも難しい仲間を、誰一人を
この村を壊滅された連中にも関わらず、カチュアは襲って来たヴァルダン連中の命を取ろうとしなかった。それどころか、逃げていくヴァルダン兵を追撃しようとしない。
(深手を負った仲間を担いで逃げることも可能なのに。連中には、仲間意識はないようだな)
「お前ら! 誰が退けといった? なぜ、勝手に逃げる!?」
逃げていくヴァルダン兵の目の前に大男が立っていた。
(何だ、あいつは? 明らかに、この部隊の隊長もしくは将軍のような威風を感じさせる)
「ひいいい!! ヴァタ様!!」
(ん? バッタ? なんか名前が、凄く、ダッサ!)
逃げて行った兵がヴァタと呼ばれていた大男の前に対し、怯え始めた。
(しかし、上の人間を前にした、ヴァルダン兵の怯え方が異質過ぎる気がする。いくら、任務が失敗して、発情した猿からチキンのように逃げて行ったとはいえ、何だ、あの怯え方は? 何だか、嫌な予感がしてきた)
「も! 申し訳ございません! しかし、我々の手には追えません!」
「そ! そうです! あの女は危険です! あの盾を持ったボイスさんを、瞬殺したしのです! こ、今回ばかりは引かなければ……」
チキンのようになったヴァルダン兵達は、必死にヴァタに許しをこいている。
(余程、カチュアが恐ろしく見えたんだな)
「不味いわ~」
カチュアは、右足を前に出す。しかし。
「あれ? 足が……」
足がフラついてしまった。
「この弱者がぁぁぁ!!」
怒り狂ったヴァタが、怒鳴り声を上げる。
「間に合わない! エドナちゃん、見ちゃダメ~!」
カチュアは、
「はわわ! 急に、どうしたんですか?」
急のことだから、エドナは驚いている。
『いきなりどうした?』
「ナギちゃんも見ない方がいいわよ~」
『え? え? え? 一体何が起きようとしているんだ!?』
エドナとナギは困惑しているが、カチュアの勘は正しかった。嫌な方向性に。
「ぐわわわわわわわわ!!!」
ヴァルダン兵達の叫び声が響き渡った。
(叫び声!? 一体何が起きているんだ!? 叫び声は、ヴァタがいたところから、聞こえてきたような……)
『なっ! 何なんだ、あれは!?』
その光景は、
逃げようとしていた、ヴァルダン兵らしき者の首がなくなっていた。そして、ヴァタの武器である斧には血が付いている。
『……まさか! あの男、自分の部下を殺したのか!?』
ヴァタは武器である斧で、ヴァルダン兵の首を斬り落とした。
『アイツ! 自分の部下を殺すなんて!』
(そっか、ヴァタを前にした、ヴァルダン兵が異質過ぎる怯え方をしていたのは、このことだったのか。このヴァタは失敗や逃亡を許さず、失態をしでかせば、例え自分の部下でも、容赦なく殺してしまうからか。何という外道ぶりだ)
(それにしても、カチュアは
(しかし、気になるのはヴァタの武器である、あの大きな斧だ。なんなんだ、あのヴァタが装備している斧は? さっきのボイスが装備していた、盾みたいに鉄や鋼で、できている感じはしない。さっき感じたあの禍々しい感じの正体が分かった。じっくりと、あの斧を見ているとなんか生き物の骨で、できているような斧だ。そうだ、あの盾も今思えば、生き物の亡骸でできている感じがしたんだ)
「何が起きているんですか?」
「エドナちゃんは、このまま隠れて~」
カチュアはエドナの目を隠していた手を離す。
「一体何を……う!」
エドナは見てしまった。ヴァルダン兵の死体を見て、すぐに目を背けてしまった。
「エドナちゃん~」
死体を見て動揺しているエドナに、カチュアの声で「はっ」と我に帰る。
「あっ! はい! 分かったんだよ!」
エドナは、また瓦礫の影に隠れた。
ヴァタは、倒れているボイスの前に立った。
「申し訳ございません、ヴァタ様」
「テメェーも、
ヴァタは、倒れているボイスの背中目掛けて振り下ろそうとした。
「やめなさい!!!」
カチュアは地面に落ちてた、折れた剣の破片を拾い。ヴァタ目掛けて、投げつけた。それも力一杯、振り絞って。
しかし。
パッキーーーン!!!
『な! こいつもか!』
カチュアが投げた剣の破片は当たりはしたが、ヴァタの体には傷が付いていない。
(狩りをしていた時に、カチュアが投げた石でギガンドベアの体に風穴を開けたのに、ボイス同様にヴァタには、同じように剣の破片を投げて当てたのに無傷なんて。こいつら、ヤバい相手かもしれない)
「生まれ変わるなら、ヴァルダンのような国には、生まれたくはないな……」
グッシャーーーーー!!!
ヴァタは容赦なく、倒れているボイス目掛けて斧で叩きつけた。
「テメェーらもだ!」
「やめてー!!!」
カチュアの胸打ちで倒れていた兵にも、容赦なく斧を振り下ろそうとした。
「もう怒ったわよ~」
カチュアは、ヴァタの元へ走り出す。走っている途中で、ジャンプした。
ドーーーーーーン!!!
カチュアはヴァタの顔面目掛けて飛び蹴りを繰り出した。蹴られたヴァタは吹き飛んで行った。
(カチュアの動きが荒々しい気がする。空元気か?)
「ふ! そんな攻撃効く、わけがないだろ!!」
怒り狂ったバッタが斧を持ち上げながら、カチュアの元へ走り出した。
ヴァタはカチュア目掛けて、斧で斬りつけようとする。カチュアはその攻撃を躱していった。
「ちょこまかと!!」
ドーーーーーーーン!!!
躱されたヴァタの一振りは、地面を叩きつけた。そして、地面には、大きな穴が空いた。
(いや、どんだけパワーがあるんだよ!? これに当たったら、
「く、くそぉお!! 女如きがぁあああああ!!!」
「あなたが殺した人達は、あなたの仲間でしょ? なんで殺すの~?」
「ふん! 逃げたり、負けたりする弱い部下などいらんわ!」
ヴァタが力強く振り絞って斧を振り下ろす。カチュアはそれに対して剣で向かい撃つ。
しかし。
バキーーーーーン!!!
カチュアの最後の剣も折れてしまった。
「くたばれ―――!」
ヴァタは、カチュア目掛けて大斧を振り下ろす。
「カチュアさん!!!」
(不味い! このままでは、カチュアが殺されてしまう!)
バッシ!
「なんだと!」
カチュアはヴァタの斧を持っている手首を掴んでヴァタの一振りを止めた。
(正直、あの破壊攻撃は、男の筋力なのか、斧の性能かはわからない。だけど、地面をえぐる程の破壊力を持っているのは確かだ。そんな力を降り出しているにも関わらず、カチュアはそれを受け止めちゃうなんて)
「くっそ! 離せ!! 離せ!!」
ヴァタは振り払おうとするが、まったく動かない。
「今度は、わたしから行くわよ~」
ドーーーーーーン!!
カチュアは、ヴァタの腕目掛けて蹴りを入れる。
「ぐおおおおおおおおお!!!」
カチュアの蹴りで、自分より大きな体を持ったヴァタを吹き飛ばした。
ヒューーーーーン!! ドーーーーーン!!
吹き飛ばされた、ヴァタは、地面に強く叩きつけられた。そして、叩きつけられたにも関わらず、すぐさま立ち上がった。
「くそがぁぁぁぁぁぁ!!!」
(頭に血が上ってきたのか? 結構、短気な性格の持ち主見たいだな)
起き上がったヴァタは、
しかし。
「ぐわわわわ!!!」
カチュアは足でヴァタの腕を受け止めて、反対の足でヴァタの腕を上の方に飛ばしていった。さらに、速攻で、ヴァタの腹目掛けて拳で殴り飛ばす。
「げほ!」
ヴァタは腹部を殴られた影響で吐血をした。
「なぜだ……?」
カチュアの手には血が付いている。 そして、ヴァタの腹部に大きな穴が空いていた。
(ヴァタに致命傷を負わせたのはいい。だが、何故、剣の破片を当てても、かすり傷すら、つけられなかった体なのに、拳だと傷を負わせられたのか。謎だ)
「女が……」
やはり、ヴァタは、懲りもせず、カチュアに向かい、斧を連続で振り回す。
しかし、カチュアは華麗に躱していく。
「この俺様が……村娘の弱者になんかに負けるなど、絶対に許さねぇ!!!」
やけくそになって、斧を振るうヴァタ。
「ふざけるな! 弱者、弱者って、何も抵抗がない人間に手をかけて、何が弱者って言っているんだよ! 所詮、そうゆう人間でしか、相手にできないでしょ!? 現に見下している女に負けているでしょうがー! いい加減に現実見やがれーーー!」
今まで、見ないカチュアの怒鳴り声が。
(あれ? これは、私が思っていたことのはず。それが何故カチュアの口から? カチュアが、私の思っていることを口にしている? てか、この喋り方、明らかにカチュアじゃない。私だ。どういうこと?)
「この女がーーー!」
ヴァタが叫ぶ。
(あれ? 気のせいかな? ヴァタの体から、黒い
「ヴァタ殿! これ以上は危険です! それは、まだ試作品です!」
「だまりいやがれーーー!!!」
ヴァタは斧で、手前にあった家の瓦礫を吹き飛ばして、静止しようとした部下にぶつけた。
「もう、いいかげんしないと、怒るわよ~」
(あの男の非道差を見てれば、誰でも怒るよな。カチュアの場合、怒ったような声じゃないけど)
「ぐおおお!! ぐおおお!!」
ヴァタの体から、段々と黒い靄出始めて来た。
(何だかヴァタの様子がおかしくなってきている。それに、何だ、あの黒い靄は?
ヴァタの体全身を包んでいっている)
「ぐお! ぐお! ぐおおおおおお!!!」
カチュア目掛けて、
(なんか、人としての、理性がなくなってきている感じがする)
後方に下がった、カチュアに目掛けて、走り出しながら大斧を振り下ろそうとする。
バキーーーーーン!!!
なぜか、ヴァタの装備していた斧が、突然、壊れた。
(何が起きた? 一瞬だが、矢見たいのが飛んできたような……。矢? 矢と言えば)
「カチュアさん! 大丈夫ですか?」
後ろの方へ振り向くと、射る構えをしたエドナの姿だった。
(あの矢は、狩りの時に、使った魔法見たいな矢だ。エドナが放った矢が、ヴァタの斧に命中したみたいだ)
「エドナちゃん、ありがと~!」
「うんうん、それよりも、あれ?」
ヴァタの様子が。
「この……ぐわわわわわわわ!!!」
ヴァタが苦しみ始めた。
黒い靄がヴァタを飲み込んだ。
「何が起きているんですか?」
エドナは体が震えている。
『正直、やな予感しかしない』
ヴァタを包んでいた黒い靄が消えていった。その黒い靄から出てきたのは、人型ではなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます