1-12 突然の別れ

 戦いに正当性はない。戦いは、ただ悲しみしか生まれない。




【ライム村】


 カチュアがライム村に良からぬことが起きていることを察したため、カチュアとエドナは急いでライム村へ向かっていった。


 そして、ライム村にたどり着いた。


 しかし。


「どうして……どうして、こんなことに!?」


 そこには、エドナが狩りに出かける前のライム村の姿ではなかった。


 彼女達の瞳に映った光景は、壊滅したライム村だった。

 

「村が……家……全部、壊されていたんだよ! 何が、起こったんですか!?」

『酷過ぎる。何なんのよ、これは!? 明らかに人の手によって壊されたものだ』

「あ! そうなんだよ! みんなは!? 村の皆は無事なの!? 村長さん!! ドアさん!!」


 エドナは、慌てて村の中へ走って入っていった。


「あ! エドナちゃん、待って~」


 村の住人の安否が気になるあまり、カチュアの声が耳には入いらなかったエドナ。


 カチュアはエドナを追いかけようとするが。


「きゃ!」


 カチュアは、転倒してしまった。


『大丈夫か?』

「ええ……わたしは、だいじょぶよ〜。それよりも、エドナちゃんを追いかけないと」

『大丈夫ならいいのだけど……』


(何なの、この感じ? 急に息が苦なった気がした。さっきカチュアが転んだ時には痛みを感じなかったのに)


 しかし、カチュアの息が荒くなっていった。




 一方、エドナは。


「皆!!! 返事して!! お願い、無事でいて!!」


 エドナは、大声で掛けながら、走り回る。


 走りながら、村全体を見渡すと。


「あ! ハックさん! 無事で……」


 倒れている男性ハックを見つけて駆け付けた。


「今、治癒術を……」


 しかし。エドナの目から涙が流れていた。


「あれ? 動いていないんだよ……。呼吸をしていないんだよ。そんな……ハックさん……」


 手遅れだった。ハックは息をしていなかった。


「ごめんなさい。助けられなかったんだよ!」


 エドナの魔道具には聖石が付いているから治癒術という対象者の治癒力を高めて、傷を治す魔術の一種を扱うことが出来る。しかし、治癒術は傷は治すことはできても、蘇生はできない。息が無ければ治癒術は使えない。


「他に生き残りを探さないとなんだよ! ごめんなさいハックさん。このままにして」


 エドナは再び、生存者を探しに走り出した。


 しかし、倒れている村人を見つけるも、生死を確認をすると手遅れだった。


 未だに、生存者を見つけることが出来なかった。


 村人の生死を確認し、死亡が分かるたびに、目から涙が出てきた。


「ううでも、諦めないんだよ! きっと、まだ、生存者はいるはずなんだよ! 生存者を探すんだよ!」


 途中で転んだりしたが、直ぐに立ち上がって、生存者を探すために走り続けた。


 そして、そんな中。エドナは、村長の家の前までたどり着いた。やはり、村長さんの家も壊されていた。


「はうう……。誰が、こんな酷いことを!?」

「うう……」


 瓦礫の中から、唸り声が聞こえてきた。 


「はうう! 声が聞こえたんだよ! もしかして、生きている人がいるの?」


 崩壊した村長の家を見渡すと。


「ドアさん!」


 家の前に、ドアが倒れていた。すぐさま駆けつけるが、エドナが生死を確認するも。


「そんな……」


 ドアは息はしていなかった。


「はうう……ドアさん……あれ? そうなるの、さっきの声は誰?」

「ぐぅ……その声は、エドナか……」


 瓦礫がれきで隠れていたが、その横には傷だらけの村長が倒れていたになっていた。


「この声は……村長さんだ! 村長さんだ。よかったんだよ。生きていたんだね」

「お主は……無事のようじゃな……良かっ……た」

「待てください! 今、手当てを!」

「無駄じゃ……自分の体だから……もう……さとっている……意識を……保つだけでも精一杯せいいっぱいだ……」

「そんなことを言わないでください! 大丈夫です! あたしが治しますんだから!」


 エドナは村長に治癒術を掛けた。


「エドナよ、気を付けるんじゃ……この村を襲ったのは、ヴァルダン王国の連中だ……。奴らは、普通じゃない。老いたわしには歯が立たなかった……奴らが戻ってくる前に……この村から……出るんじゃ……」

「村長さんも一緒に逃げましょ! だから……だから……諦めないでください!」


 エドナは必死に治癒術を掛けているため、傷は塞がっていっている。しかし。


「何で!? 傷が塞がっているのに、村長さんの体が冷たくなってきているんだよ! 何で? 何でなの!?」

其方そなたは優しいの……そんな、其方だけでも、無事でよかった……エドナよ……幸せに生きてくれ……」


  村長は動かなくなってしまった。エドナは村長の脈を確かめて見た。


 エドナの目から涙が零れてきていた。


「村長さん!? 村長さん!? 村長さん!? 噓でしょ!? う!! いっ、いやーーーーー!!! 村長さーーーーーーん!!! 村長さーーーーーーん!!!」

 

 村長さんが息を引き取った。


 エドナは、大声で泣き叫んだ。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ショックのあまり、大きく泣き叫んでしまう。


「エドナちゃん!!!」


 そんな泣き叫んでいたエドナを、彼女を追いかけて来たカチュアが抱いてくれた。


「カチュアさん!」

「あなたは絶対守るは……だから……死んでいった村の人たちの分まで、あなたは生きて」

「カチュアさん……カチュアさん……うっ!! うわわわわわわわわわ!!!」


 そのまま、カチュアの胸元で泣き叫けんだ。エドナが泣き止むまで。




「落ち着いたかしら~?」

「……うん。もう、大丈夫なんだよ……」

「……あのね。わたしも、村全体を回って見たんだけど……その……せいぞ……じゃなくって……違う、いいえ……」


 カチュアは、何かを伝えようとしたが躊躇ちゅうちょしてしまっているようだ。


(難しいだろうな。こんな辛いことをどう伝えるか?)


「……この後に、カチュアさんが何を言いたいことはわかっていたんだよ……。生存者は……いないのですね? 気を使わなくても大丈夫ですよ。分かっているんです」


 必死に事実を隠そうとしていたカチュアを悟ってしまったエドナ。


「分かっ……て、いるんです」

「エドナちゃん……ごめんなさい」

「カチュアさんが悪いわけじゃないんですから!! ごめんなさいカチュアさん。気を遣わせちゃったんだよ。あたしは大丈夫です」


 目から零れ落ちた涙を拭いた。


「それとね~。こんな時に言うのは申し訳ないんだけど、このままでは危ないのよ~」

『どういうことだ? カチュア』

「この村に目掛けて、なんだかは分からないけど、何かが向かってくるわ〜。音からして足音ね。多分、この足音からして人よ〜。もしかしたら、わたし達が村に向かってことを悟られたかもしれないわ〜」

「もしかして、村を襲った人達かな? 村長さんが言うには、村を襲ってたのが、ヴァルダン王国だと言っていたんだよ」

「ヴァルダン? それって……どこ~? 王国の名前かしら~?」

「ヴァルダン王国は、このコルネリア帝国の隣にある国です。あたしが知っているのは、それぐらいしか知らないんだよ」

「……エドナちゃん、こんなことがあってからでは、平常にはいられないと思うわ~。だけど、この村に向かって来ているは、そのヴァルダンの人達よ~。その人達をどうにかしないといけないわ〜」

『おいおい! それは逃げた方がいいのでは?』

「……その人達は、この村を囲むように向かってくるのよ〜。逃げるのは難しいわ~」

「ということは、戦わないといけないのかな?」

「少なくとも、生き残りたいなら、そうしないとだわ~」


 目を閉じて沈黙ちんもくするエドナ。しばらくして、目を開けた


「……うん。あたしは戦うのは嫌だけど、カチュアさんの言う通りなんだよ。あの人達をどうにかしないとなんだよ!」

「そーと決まれば、取り敢えず、武器ね~。……なんかないかしら〜? さすがに素手だけじゃ、不安だわ~……」

『あんたは必要ないだろ!?』


(現にカチュアは熊を仕留めているし)


「武器と言えば、知り合いの武器商人が、よく狩り用の武器を持って来るんです。確か……マスティさんの家で管理しています」

「案内して~」

「うん、こっちです!」


 エドナは、カチュアを連れてマスティさんの家まで案内した。




「はうう。分かっていたけど、やっぱ、マスティさんの家も壊されているんだよ」


 エドナ達の目の前には、破壊された一軒家。その家が、村の必需品ひつじゅひんを管理しているマスティの家だった。


 破壊されたマスティの家の前には、シートが置いてあった。そのシートには膨らみがあった。


 エドナはそのシートを見ると、すぐに目線をらしてしまう。


(このシーツに被せているのって……その中身は、もうわかっていたんだよ。このシーツは、カチュアさんが被せたのかな? 後で、皆の埋葬まいそうをしないとなんだよ! それよりも、今は村を襲ったヴァルダン王国の方々を退けないとなんだよ)


「ここが、そのマスティという人の家ね。ここに武器が保管されているのよね~」

「そうです」

「わたしが扱える武器はあるかしら~? 取り敢えず、壊れにくい武器はないかしら~?」


 カチュアは、家の瓦礫を軽々とどかしながら、武器を探している。


「うーん~。わたしが使える剣はなさそうね~」

「カチュアが扱う武器は剣でしたよね?」

「剣じゃなくっても、槍でもだいじょぶよ~」

「あ! 剣ありました! この剣じゃ、だめですか?」


 エドナが見つけたのは、大体七十センチ位の剣だった。それをカチュアに見せた。


「わたしの場合は、大きめの剣じゃないと簡単に壊れちゃうわ~」

「この村にある武器は、狩りのための武器しかないんだよ」

「……仕方がないわ~。何本かの剣で補うしかないわ〜」


 カチュアは、十本くらいの剣が収められている鞘をベルトで一つに纏めた。


「あたしも戦う準備しないとなんだよ。ハルトさんが矢を多く置いてきてくれるから、問題ないんだよ。そう言えば、 確かハルトさんが、いい弓を置いてくれていたはずなんだよ。どこかな?」


 探していると、張り紙が貼ってある木箱を見つけた。その張り紙には「ちっこい嬢ちゃんに渡してくる」と書かれていた。


「……これなんだよ」


 開けると、木箱の中には水色に輝く弓が入っていた。


「これは……凄いんだよ! あたしが使っていた弓よりも、立派な弓なんだよ。ハルトさんには感謝なんだよ!」


 急にカチュアは「ふっ」と顔を見上げた。


「もう、近くまで来きわよ〜!」

「はうう! 分かったんだよ! 今行きます」


 そう言うとカチュアは村入り口まで走り出した。


「村長さん、皆さん……あたしに力を……」


 ハルトから貰った弓を抱きながら、エドナはカチュアに続いて走り出した。


「エドナは村の皆の分まで頑張ります」

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