第158話 アバラ骨蔑視、治療

「さて、これからどうしたものか」


 武器を手に入れる、という目的を果たすことはできた。

 ならさっさと帰還するのも一つの手だ。

 でも『なぜ武器が必要なのか』という点を考えれば、もっとたくさん入手しておきたいという気持ちもある。

 せめてあと三つ……。


”いやいやいや、何を迷うことがあんねん……”

”どう考えても帰還一択やろ”

”ゲートからそう離れた場所でもないし、いったん戻った方が絶対にいいって”

”視聴者としてはもっと配信して欲しいって気持ちもあるけど……”

”攻撃をまともに食らったの見ちゃうとな。さすがに心配が勝つわ”


 俺は脇腹をさする。


「う〜ん……怪我したって言っても、アバラが何本か折れた程度だしなぁ」


”重傷やんけ”

”でたよ、アバラ骨蔑視”

”普通はヒビ入っただけで寝返りするのも辛いんやぞ”


「でもそっか、ポーチ無くしちゃったんだよなぁ。さすがに一旦帰る方が無難かも」


”お、ジローらしからぬ懸命な判断”

”ぶっ飛ばされた時に頭打ったんかな”

”アバラより頭のダメージの方が深刻そう”

”衝撃与えたら正常になると思われてんの草生える”

”ブラウン管かな?”

”頭蓋骨真空だと思われてんのか”


 ドローンが俺のそばから離れる。

 四メートルほど先でホバリングして、俺のことをじっと見つめてくる。

 配信中だからいつも通りではあるんだけど、なんとなく何かを訴えているように感じて、俺は後を追うことにした。

 ドローンに導かれて広いフロアの隅にまでくると、そこには、


「あっ、ポーチ!」


 駆け寄って拾い上げる。

 間違いない、無くしたはずのポーチだった。


「どこに落ちたか見てたんだ。ありがとう、助かったよ」

「ピピッ」


 ドローンが小さく上下に揺れる。

 きっと手ぶれ補正の範囲内で、喜びを表現しているのだろう。

 い奴め。


”さすが、相変わらず有能やな”

”ジローのドローンとは思えん”

”ペットは飼い主に似るって言うのにな”

”頼りない親元で育つとしっかり者になるって話もあるぞ”

”確実にそっちのパターンやな”

”確かに有能なんだけど、この状況だと……”


 俺はポーチの中身を確認してみる。

 バクナワ素材で作られているだけあって、単純に容量が多いだけでなく、耐衝撃性能も抜群だ。

 ポーションの瓶は割れず無事だった。


 ポーションの使用法は主に二つある。

 一つが患部に直接かける方法だ。

 切り傷なんかは、これで瞬く間に治る。

 もう一つが経口摂取する方法。

 回復の効果は緩やかだが、全身の不調を満遍なく癒してくれる。


「でもなぁ、骨折の場合はどっちも微妙なんですよね。開放骨折なら患部にかけるのがベストなんだけど、閉鎖骨折の場合は直接かけても効果が薄くて。かといって飲んでも劇的に回復するわけじゃないし」


”へぇ、そうなんか”

”ポーションっていっても、漫画とかに出てくる魔法の薬って感じじゃないしな”

”あくまで自己治癒能力を高めるって感じだもんね”

”だからこそ金持ちが美容目的で買い漁ってたりするんやけどな”

”その話マジで嫌い。嫉妬も混じってるかもしれんけど”

”整形しまくってたアイドルが元の顔に戻ったって話だけは好きやわ”


「だから冒険者が探索中に閉鎖骨折した場合、患部を切り裂いて折れた骨に直接ポーションをかけたりするんですよね。かくいう俺も、一度だけ経験があって。ダンジョンキャンプ中に大怪我した冒険者を見かけて、その人の治療のために」


”初耳や。そんなことあったんか”

”配信外の出来事なんだろうね”

”いやでも普通、噂にならんそういうの? 俺が助けたもらった冒険者なら、絶対に人に話すけど”

”そうやってちゃんと人助けとかしてんのに、なんでジローって恐れられてんのやろ”


「その人は無事だったんですけど……ほら、医師免許もない俺が人の体を切り裂いたわけじゃないですか。いくら助けるためとはいえ、そういうのって法律的にどうなのかなぁって。だからその人には『この件は秘密に』って真剣に頼んだんですよ。そしたらその人、もう少しで死んでたかもしれないってことを遅れて実感したのか、ガタガタ震え出して『死んでも言いません』なんて真っ青な顔で」


”あ……”

”いや、そのビビり方はどう考えても別の理由……”

”通りで誰にも伝わってないわけや”

”体内に何か埋め込まれたんじゃないかって今でも心配してそう”

”助かった直後に「死んでも」なんて約束しなきゃいけない状況ってなんやねん”

”そりゃ誤解されて恐れられるわ”

”言葉足らずすぎる”


「だから……う〜ん。脇腹切り裂いてアバラ骨に直接ポーションかけたらいいのかな?」


”イヤァアアアア!!!”

”想像しただけでグロすぎる……”

”見たくない見たくない見たくない見たくない”

”それは腕とか足の話やろ。胴体はよっぽどのことがない限りやっちゃあかん”


 俺はポーチの中を探ってみた。

 さすがはアマンダさん、用意周到だ。

 医療用の大きな絆創膏が見つかった。


 パッドにポーションをしっかりと染み込ませて、脇腹にペタリと張った。

 即席の湿布のようなものだ。

 フィルムは防水性みたいだから、蒸発したり服に染み込んだりすることもない。


 残りのポーションを飲み干す。

 空き瓶はポイ捨てしたりせず、ちゃんとポーチに仕舞った。


 とりあえず今できる最善の治療をした。

 引き返したところで、他にできるのは安静にすることくらいだろう。

 なら……。


「よし! 探索続行!」


”やっぱそうなるよなぁ……”

”ドローンがポーチの場所を教えるから”

”だからって黙ってるのも違うやろ”

”ドローンちゃんを責める奴は俺が許さん。悪いのはだいたい全部ジローや”

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