第156話 愚かな選択

 近づいて、壮麗な剣の柄を握る。

 勇者じゃなければ抜けない——なんてことはなかった。

 俺はユニコーンの尻から剣を引っこ抜く。


「……すごいな」


 振るうまでもない。

 これまで手にしてきたどの武器よりも優れていることがわかる。

 それも圧倒的にだ。


 こちらの世界でいう、エクスカリバーや天叢雲剣みたいなものなのではないだろうか。

 別世界の——伝説の剣。

 それこそ神話になっているような。


(もしかしてガイアたちって、この剣の守護者なのかな?)


 いやだとしたら、ここの守りはもっと厳重になっているはずだ。

 この剣とガイアたちは無関係だと考えた方が自然な気がする。

 どちらにせよ、どんな逸話があるのか俄然気になってきた。

 別世界人と友好な関係を築けたら、話を聞いてみたいものである。


「鞘はないのかな?」


 周囲を探ってみたけれど、見つけられなかった。

 仕方なく、抜き身のままで持ち運ぶ。


 屋上からショッピングモールの中に戻る。

 この剣があれば、出口をどれだけ固められていようと突破することができるだろう。

 さっさと出口を見つけて逃げ出そう。


 そんなことを考えながら歩みを進めていた、その時だった。

 ふと気づく。


「……あれ? そういやドローンは?」


 思い返してみると、雑貨屋のバックルームで目を覚ました時から、目にしていない気がする。

 もしかして、あの場に取り残されているのだろうか。

 俺がぶっ飛ばされて、でもガイアたちに取り囲まれているから、後を追うこともできず。


「…………」


 ドローンは、ただの機械だ。

 ペットでもなければ、そもそも生き物ですらない。

 すでに破壊されてしまっている可能性だってある。


 せっかく包囲網から脱し、逃げ出す算段がついたというのに……。

 ドローンを回収するためにあの場所に舞い戻るなんて、愚かな選択だ。

 それはわかっているのだけど。


 ——ごめんって。もう置き去りにしないから。


 迷ったのは一瞬だけ……いや正直、一瞬すら迷わなかった。

 俺は踵を返す。

 愚か?

 何を今更。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る