第171話 ナルト走り、ドロ虐界隈

 ひたすらモチモドキモチモドキモチを追ってここまできたから、道順なんて全く覚えていない。

 だから俺はとにかく走り回り、階段を見つけては飛び降りた。

 もちろん怪我人を背負っているから、負担をかけないように気を使ってはいるけれど。


 モンスターを蹴散らすのもそれが理由だ。

 避けるために急停止したり急旋回することの方が、背負われている者にとっては負荷がでかいのだ。

 だから多少のリスクを冒してでも、一切減速せずに突っ込む。

 まあちょっとマジで膀胱がやばいってのもあるんだけど。


 上半身が揺れないように腕をだらりと下げて、前傾姿勢のまま跳躍するように進む。

 走っているというよりも、滑走しているような感覚だった。

 スケボーみたいに定期的に推進力を与えて、あとは慣性で進んでいるような。

 なんかこれ走りやすいなぁ、と思ってから、


(あれ? これってナルト走りじゃね?)


 とふと気づく。

 俺の中に走る時は「腕を目一杯振る!」とか「上半身を立てて地面をリズムよく蹴る!」みたいな固定観念があるんだけど、もしかしたら身体能力が一定水準を超えると、最適なスプリントフォームが変わってくるのかもしれない。


 というか考えてみれば、同じわけがないのだ。

 ダンジョン出現以前は人間の身体能力に大きな差がなかった。

 プロとアマチュアの差がコンマ数秒とかってレベルの話だ。

 だから骨格や筋肉量、柔軟性などで多少の差はあれど、フォームの最適解は自然と収斂していった。


 でも今はもう違う。

 赤ちゃんがハイハイをするのは、それが赤ちゃんにとって最適な移動手段だからだ。

 でも成長するにつれ自然と立ち上がり、二本の足で歩き始める。


 赤ちゃんが立ち上がるのは、親や周囲の人を真似してのことらしい。

 俺たちにはそうやって手本にできる存在がいないから、従来の走り方を継続しているだけで、本当はもっと早く次のステージにいけたのかもしれない。


(まさかそれがナルト走りだったなんて……)


 まあ本当にこれが最適なフォームかはわからないけれど。

 大勢の人が試行錯誤するようになれば、もっといい走法が編み出されるかもしれない。


 とにかく俺は人ひとりを背負いながら、過去一の速度でダンジョンを駆け抜けた。

 俺はどんどん前傾姿勢になっていく。

 速くなるにつれて空気の抵抗が増し、それが倒れようとする体を支えてくれるのだ。

 やったことがないから多分だけど、スキージャンプってこんな感覚なのではなかろうか。


”ジローの懐からの映像だからわかりづらいけど……これめっちゃ速くない?”

”新幹線の車窓を眺めてる気分”

”人を背負ってんのに、最高速度更新すんのかよ……”

”やっぱヤベェなこいつ”

”おしっこ我慢してるからかな?”

”もうずっとおしっこ我慢してればいいのに”


 前方にモンスターの姿が。

 これまでと同じように蹴散らそうとして、


(いや、この走法なら……)


 と考え直す。

 俺はタッと飛び立つと、それこそ忍者の如く壁を走り、モンスターの頭上を超えていった。


”え、何今の? 空飛んだ?”

”いや壁を走ったんちゃうか?”

”ああなんや、ただ壁を走っただけか。……ただ壁を走っただけか?”

”十分異常で草”

”もう何に驚けばいいのかわからんくなってきたわ”


(……クソ)


 俺は内心で毒づく。

 疾走感による高揚なんて微塵もなかった。

 むしろ速度が増せば増すほど、気分は落ち込んでいった。


(なんでもっと早く、この走法に……)


 そうしたら——

 モチモドキモチモドキモチに追いつけていたかもしれないのに。


”でもなんか、さっきからずっと変じゃない? 走ってるならもっと画面が揺れると思うんだけど……”

”確かに。ドローンに手ぶれ補正があるって言っても、ここまで画面が揺れないのは変やな……”

”ガチで舞空術使ってる可能性あって草”

”頼む! 俯瞰視点でどうなってんのか見せてくれ!”

”FPJマジでクソだわ”

”なんやFPJって”

”ファーストパーソンジロー配信”

”今すぐTPJに戻すことを要求する”

”そうなるとドローンが置いてかれちゃうだけなんだよなぁ……”

”ドローンちゃんが困ってるところはちょっと見たい”

”わかる。破壊されない程度に酷い目に遭ってほしい”

”ドロ虐界隈とかあんのかよ”

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