原罪

閑古路倫

第1話 誕生

 暗闇の中で目が覚めた。

 そこは、心地良い位の暖かさと眠くなる位の柔らかい肌触り、温い水の中で俺は目覚めた。


 俺は何故こんなところに居るのか?

 俺は一体何ものなのか?

 ああ、それにしても何と心の安らぐ処だろう。


 ふと思ってしまった。

 ここに来る前、俺は何処にあったのか?

 と、同時に激流の様に俺の頭の中に甦る記憶、渦に巻かれる様に息も出来ない。


「待て、待て、これは記憶なのか?俺が仕出かした事なのか?」

「いやいや、待て、待て、これから起こる事じゃないのか?」

「これから仕出かす事を、今?俺の脳?心?何処だ?」

「そこで見せられているのか?」


 一瞬の間が過ぎて、俺の身体からだをこの心地良い水中から押し出す大きな力を感じた。


「嫌だ!嫌だ!ここから出たくない、あんな思出の場所に出たくないんだ!」


 瞼の裏に光を感じた。口から水を吐いた刹那せつな、俺は全部を忘れた。脳か心かに押し込まれた記憶か未来かの全てが消えて行く...


 何処からか声が聞こえた。


 「おめでとうございます。元気な男の子ですヨ!」

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