第16話
痛みが引くまでじっと耐えていると、やがて鏡に映した左目は赤褐色ではなく、薬液と同じ暗い呂色に染まっていた。
こうして薬草を煎じた液体を点眼し続けなければ、この左目は本来の血の様な赤い目に戻ってしまう。
「カイザ、そろそろ薬液が終わりそう」
「明日作るよ。さあ座って、ミュリナーユ」
テーブルに置かれた焼き立てのパンとチーズ、そしてスープ。
民衆の多くが飢えで苦しんでいるのに、此処には農作物があり新鮮なミルクもある。
水質の良い井戸があるだけではなく、土壌が良いのか館の裏庭では花がよく育ち。
作業小屋には食料や薪が大量に備蓄されていた。
「カイザの焼いてくれるパンが一番美味しい」
「大袈裟だなあ。焼き立ては大概美味しいものだよ」
薬草の知識に長けたカイザが居なければ、今頃ミュリナーユは外を歩く事さえ儘ならなかった。
赤い左目。
人々を襲い、世界を混乱と恐怖に突き落とす魔物と同じ、赤い目。
そして。
黒い眼帯の下、右目は。
カイザの薬液を持ってしても、ほんの少しも色を染められない。
これこそが一番の危惧なのだ。
もしも誰かに知られたら、ミュリナーユは間違いなく囚われの身となる。
魔物と同じ赤い目を左に持つミュリナーユの、眼帯で隠したその右目は。
光り輝く金色の宝玉なのだから ─── 。
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