第8話

「まあ良い。後の事は上手くやれ、ゾーイに些事は任せてある。くれぐれも邪魔だけはするな」



「…おおせのままに」



「さて、わたしはそろそろ出掛けるとしよう」



「お待ちください、力を…っ、わたくしに力を…っ!」



慌てた様に追い縋る女の必死な様には見向きもせず、魔王の姿は瞬く間に闇へと霧散する。



縋る事さえ許されなかった女は、魔城の冷たい床に膝を突いて嗚咽した。



4人居る魔王の側近の1人でありながら、今は僅かな魔力しかない。



数日前から魔力の大部分を魔王に取り上げられたまま、既に幾度も赦しを乞うたが無駄に終わっている。



自らの犯した過ちを思えばこの程度で済んでいるのは奇跡とも言えよう、追放もされずに魔王に仕える事を許されているのだから、その寛大な恩情に感謝もしている。



だが魔物にとって魔力は生命線、魔力が無ければ何もできない、何をするにも魔力が必要。



早く魔力を取り戻さなければ今の姿を保つ事さえ危うくなるが、度を越して魔王に縋れば今以上に機嫌を損ねてしまうだろう、それは何より恐ろしい。



失態を贖う何かが必要だ、挽回する何か、信頼を回復する何かがなくてはならない。



魔王の邪魔にならず、それでいて魔王の目的達成の為の一助となれば、きっと再び目をかけていただける。



こうして嘆いている間にも残存する魔力は目減りしてゆくのだ。



行動するべきだと己に言い聞かせ、女はのろのろと立ち上がった。



その姿はまだ、人間の女と何ら変わらぬ妖艶な姿のままだった。





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