第8話
「まあ良い。後の事は上手くやれ、ゾーイに些事は任せてある。くれぐれも邪魔だけはするな」
「…おおせのままに」
「さて、わたしはそろそろ出掛けるとしよう」
「お待ちください、力を…っ、わたくしに力を…っ!」
慌てた様に追い縋る女の必死な様には見向きもせず、魔王の姿は瞬く間に闇へと霧散する。
縋る事さえ許されなかった女は、魔城の冷たい床に膝を突いて嗚咽した。
4人居る魔王の側近の1人でありながら、今は僅かな魔力しかない。
数日前から魔力の大部分を魔王に取り上げられたまま、既に幾度も赦しを乞うたが無駄に終わっている。
自らの犯した過ちを思えばこの程度で済んでいるのは奇跡とも言えよう、追放もされずに魔王に仕える事を許されているのだから、その寛大な恩情に感謝もしている。
だが魔物にとって魔力は生命線、魔力が無ければ何もできない、何をするにも魔力が必要。
早く魔力を取り戻さなければ今の姿を保つ事さえ危うくなるが、度を越して魔王に縋れば今以上に機嫌を損ねてしまうだろう、それは何より恐ろしい。
失態を贖う何かが必要だ、挽回する何か、信頼を回復する何かがなくてはならない。
魔王の邪魔にならず、それでいて魔王の目的達成の為の一助となれば、きっと再び目をかけていただける。
こうして嘆いている間にも残存する魔力は目減りしてゆくのだ。
行動するべきだと己に言い聞かせ、女はのろのろと立ち上がった。
その姿はまだ、人間の女と何ら変わらぬ妖艶な姿のままだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます