第193話

なんで泣いてるの…?



八雲さんの切れ長の瞳からポロポロと流れる涙。


さっきはこれが入ったのか。




いつも八雲さんがやってくれてるように、涙を拭うため重たい手を持ち上げた。



でもその手は八雲さんに取られ、八雲さん自ら頬を刷り寄せてきてくれた。



暖かい。

体温も、涙も。




「ハイネ…」



あ…。

あたしの手…。



埃まみれだ。


汚い。




「八雲さ…離し……」



「…やっと…ハイネに触れた」



「……っっ!!」




離して。



そう言おうとした。



でも八雲さんは離すどころか、痛くないように少しだけ力を込めてきた。


涙を流したまま柔らかく微笑んで、そんなことまで言ってくれるから。




「ふっうっあっ…」




限界だった。



溢れだした涙で八雲さんが見えない。




「あああああああーー!!」


「…ハイネ」



「やぐっっやぐもざっ…あああああああーー!!!!」




泣き叫ぶ。




「怖かったな。痛かったな。ごめんな。ごめん。守れなくてごめんっ」




いまだに血が流れるあたしの太ももを押さえながら、片手で深く抱きしめてくれる。




「病院連れてくからな」



「ひっぐ。や…ぐもざんも??」



「ああ。もう離れねぇ…」


「ふっひっ…うっぐ。うん!!うん!!」



「ふざっけんな!!殺す気か!!こんなこと赦され…」



『うるせぇ』



「ぎゃあっ!?」




逃げていた男が戻って来たらしい。



だけど、ガターーンッッと何かがぶつかる音と男の悲鳴が重なった。




『やっと会えた二人の邪魔すんじゃねぇよ。殺すぞ』




声がした。



ゾッとするほど怒りに満ちた冷たい声。




「………………けー?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る