18.ジョン・ストレンジャーの理想の家

 山にかこまれた小さな村に、ジョン・ストレンジャーという男の子がいました。

 ジョンは、両親が死んでから、ひとりで家に住んでいました。


 ジョンは気むずかし屋で、いろんなものが気に入りません。大きな三角形のハナをしかめて、いつもニーナに話していました。ニーナは近くに住んでいる、小さな丸いハナの女の子です。

 ジョンは、自分の村が気に入らないのです。

「この村は、がまんがならないよ」

「あら、あたしはだいすきよ」

「ジョンが15人もいてさ。みんなおなじことをして。いなかで、ズッキーニ畑ばっかりでさ」

「ピクルスを作るためよ」

 村の名産も気に入りません。

「なんだい、ズッキーニのピクルスばっかり作って」

「だって、おいしいじゃない」

「ぼくはシロップ漬けのほうが好きなんだ!」

 ジョンはフンッとハナをならし、ニーナはクスッと笑いました。


 いちばん気に入らないのは、自分の家です。毎日もんくを言っていました。

「あの家がだいきらいさ。住んでいたくないよ」

「どこがいやなの?」

「ぜんぶさ。ドアやまどは重いし、ちょうつがいはかたいし、家具は大きいし、キッチンは丈が高すぎる! さおなかべは青すぎるし、真っ黒いかわらはビカビカ光りすぎる。なにもかも気に入らないんだ。ドアノブひとつさえ、しっくりこないんだから」


 とうとう、ジョンは決心をして、ニーナに会いにいきました。

「ぼくは旅に出るよ。ぼくにぴったりの、理想の家をさがすんだ。世界のどこかには、きっとあるはずさ」

「さみしくなるわ」

「見つけたら、きみを招待するよ」


 ジョンは旅に出ました。

 マントとマフラーに顔をうずめて、とがったハナが、ピンと前をさしています。

 村をあとに、ずんずん歩いて、どんどん前に進んでいきました。


 風の日も、雨の日も、あつくても、さむくても。

 ズッキーニのシロップ漬けをかじって、ずんずん歩いていきました。

 野をこえ、山をこえました。村や町を通りました。川や海をわたるときには、船や気球に乗りました。

 とちゅう、いろんな場所でいろんな家に住みました。

 木の家、石の家、レンガの家。灯台には1年住みました。北極では氷の家、平原ではテント、ジャングルではツリーハウス。洞窟どうくつに住んだこともあります。崖に作られた家にはおどろきました。

 でも、これという家は見つかりません。どれほどいいと思っても、どこかに気に入らないところがあるのです。すべてがぴったりという家は、なかなかありません。

 ジョンは前へ前へ、どんどん進んでいきました。


 理想の家は見つからず、10年が流れました。

 ジョンはおとなになりました。背がのび、力もつきました。

 ズッキーニのシロップ漬けは、いつからか、ピクルスに変わっていました。

 とうとう、ジョンは歩きくたびれました。

 やっぱり、理想の家なんてないのか……あきらめかけたときです。

 夕暮れの中、ふと見上げた丘の上に、ぽつんと1軒の家が建っていました。

 くすんだ水色のかべの、小さな家です。水色がとてもいいふういです。おちついたグレーのかわらと、かべをはうツタもちょうどいいのです。

 ジョンはどきどきしながら、その家に近づきました。

 ノックをしても、声をかけても、返事はありません。そっとノブを回すと、すっとドアがひらきました。

「おじゃまします……、だれかいますか……」

 中に入ってみると、どの部屋もいいかんじです。じゅうたんも、ソファも、タンスも、空気も。すべてがしっくりくるのです。

 どこになにがあるか、手に取るようにわかります。ジョンはすぐに寝室を見つけ、ふかふかのベッドでぐっすり眠りました。


 朝になって、ノックの音で目が覚めました。

「ひょっとして、この家の住人だろうか」

 ドアをあけると、かわいらしい娘が立っていました。

「おかえりなさい、ジョン!」

「きみはだれだ? どうしてぼくを知ってる?」

「わたし、ニーナよ」

「ニーナ? ニーナかい? なんでこんなところに」

「ここはわたしたちの村よ。この家は、あなたの家よ」

「なんだって⁉︎」

 朝日の中で見まわすと、たしかにそうです。10年前に飛び出した、自分の家です。

 ずんずん歩いて、どんどん前に進むうちに、地球を1周して、おなじ場所にもどっていたのです。

「あなたがいつ帰ってもいいように、毎日風通しをしていたのよ。ベッドもふかふかだったでしょう」

「そうだったのか。ありがとう」

「今日の夜は、あなたの歓迎会かんげいかいよ」

 丘のふもとに、村の人々が集まっているのが見えました。花かざりやごちそうの用意をしています。ジョンは、ハナのおくがじーんとなりました。

 ニーナがにっこり笑いました。

「理想のおうちは見つかった?」

「ああ。きみを招待するよ」


 こうしてジョンは、理想の家を見つけました。

 その後、ニーナと結婚し、子どもたちが生まれました。

 ジョンとニーナと子どもたちは、その家でなかよく暮らしました。


 おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る