第38話

「ここの部屋で、お食事しましょう」



おじさんが足を止め、扉を開けると、そこはい草の香りが心地いい、畳の和室だった。



和室といっても、現代風のデザインを取り入れた和モダンで、照明は、和紙でできた丸いランプシェードが使われていた。



壁側にはディスプレイ用の仕切りがあり、幼い頃の、マスターの写真が飾られている。



その中には、肌は小麦色で、サーフボードを持つマスターがいて、家族らしき人物と3人で写った物があった。



私がまじまじと写真を見ていると、南さんが現れ私の隣に立った。



あきら、可愛いでしょ?」



「可愛いです。美男子ですね?」



「あの子、仕事であんな格好してるけど、普通にしてればいい男なのよ」



あきらいわく、あれは"チロルの家"の制服で、あの格好が落ち着くんだとさぁ」



南さんも、おじさんも、昔を懐かしむように、笑いながら話した。



「マスター、サーフィンするんですか?」



「昔やってたけど、今は全然……」



なぜか、さっきまでの笑顔は消え、南さんは、深くため息をついた。



「両隣に写っているのは、マスターのご両親ですか?」



「そうよ。輝の父親は、精神科医。母親は薬剤師だったのよ」



「へぇ――頭のいい家系なんですね。マスターは、何科の医師なんですか?」



「精神科医をやってたのよ。父親の真似したのね」



「精神科……だったんだ」



「ちなみに私は外科の看護師。このおじさんは病院の管理栄養士だったのよ」



「みんな医療関係の仕事なんですね。すーごい!マスターはいつか、医療の道に戻るんですか?」



「どうだろー。あいつもいろいろあって……今は、料理人が楽しいみたいだからなぁー。わしが伝授したあさりスパゲティ、うまいやろ?」



「え――!おじさんは、お手伝いの人じゃないの?」



おじさんは、店が忙しくなると、たまに料理を運んでいたから、私はアルバイトだと思っていた。



「わしは、初代"チロルの家"のマスターじゃ。輝の師匠だぞ!」



おじさんは、鼻高々に話した。



「あっ、勘違いしてすみません」



「杖ついて座ってたら、誰が見たって、あなたは、お手伝いの人なのよ」



南さんも、おじさんも大笑いし、私は苦笑した。



「でもね、この人、病気で手が動かなかったのに、輝を料理人にするために、リハビリ頑張って、今じゃ小籠包も作れちゃうのよ。褒めてあげて」



南さんのおじさんに対する愛情に、鼻がキーンとし、思わず涙が出そうになった。



「あつこ、そんな話をしたら、照れちゃうだろう」



おじさんは、目に涙を浮かべ、涙を隠すように部屋を出た。



そしてその後、おじさんが運んだ料理は、南さんが話していた小籠包だった。



セイロから湯気が立ち上がり、美味しそうな匂いがする。



蓋を開けると、薄い皮に包まれた、スープたっぷりの小籠包が並んでいる。



「この人と皮から作ったのよ。食べてみて」



私は、タレと、細く刻まれた生姜を乗せ、ひと口で食べた。



口の中でスープがあふれ出て、薄い皮がつるんと踊る。具の肉は、ほろりと崩れ優しい味がした。



「汁がたっぷりで美味しい〜最高です」



「炒飯も美味しいから食べてみて」



南さんによそってもらい、炒飯もレンゲでパクリといただいた。



「これは、ヤバいですねー。『手伝いの人』と言った事を謝罪します」



「俺の飯はうまいじゃろ。輝は、まだまだわしに勝てん」



おじさんは自慢げに話し、みんなで大笑いして、楽しいランチだった。

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