託の証明 過去の、あなたへ
「そういえば、昼当番って知ってますか?小谷さんは外出すると言われたんですが。奥松さん寒くないですか?」
庁舎へ戻る道すがら奥松さんに尋ねた。取次を頼んだ女性から告げられたのだと説明する。
「ありがとうございます、大丈夫です。お腹いっぱいになったら暖かくなりました」
それはよかった。朝晩だけでなく冷えるようになってきた。僕は未だ季節や気温の移り変わりに順応できないでいる。時間の流れが早かった彼は余計そうだろう。
「お昼当番とは、本来お昼休みである12時から13時までの窓口を日替わりで担当することを指しているんだと思います。きっと小谷次長が12時から窓口に出て、13時からお昼休みになるので席を外して食事に出るという意味です」
やっぱりそうか。銀行員のお姉さんがまさに昼当番だったと考えればいいようだ。
「そうですね。もしかしたら外に出るって言ったのは、次長のお昼休み中に訪ねて来ないようにと取次の方が配慮したのかもしれません」
「ははあ。気の利く方ですね」
「ええ、そうだとすれば大変なしごできなんだと思います」
小谷次長と呼ぶということは、奥松さんは未来で彼と面識があるのだろう。そう思えて心強い。僕は今日とても素晴らしい縁を結んだ気になる。
***** ***** ***** ***
14時を過ぎ庁舎へ戻った。午前中に話した彼女は僕の姿を見るや、すぐに小谷青年を呼びに行ってくれた。緩い。僕は何かを売りつけようとする悪い奴かもしれないのに。
それから奥松さんが喫煙者なのが少し意外だった。知っていればレストランで我慢しなかったのにというのが共通の意見だ。
「片石さん、あの方はしごできで間違いありません。令和現在でも現役ですよ」
「嘘っ!」
奥松さんがせっかく耳打ちで教えてくれたのに僕は叫びそうになる。
そんなバカな!女性は五十代くらいに見える。38年後には相当なお年を召されているはずじゃないか。
「まだ三十代だと思います。定年で退職されてからも―――呼び方は変わりましたが、望まれて嘱託のような形で続けられています」
そして今でもあの上っ張りを着ているんだそうだ。芸者さんみたいな髪型をしているそう。
小谷青年もすぐに姿を見せてれた。だから緩いって!あまりにも警戒心に欠けてはいまいか。マンションを売ろうとするかもしれないのに。
「お待たせしました」
「小谷さん、お忙しいところ申し訳ありません」
彼は僕を見て「あの・・?」と言葉を探す。
「先日お世話になった者ですが、小谷さんはいらっしゃいますか」
上っ張りの女性には先程そう窺った。そのまま伝えられているとすれば彼は見覚えのない僕に戸惑っているのだと想像できる。これはきっとこれから幾度となく受ける洗礼になると心得ている。
「突然すみません。実はお渡ししたいものがあってお邪魔しました」
「・・・渡すもの、ですか?」
怪訝そうというよりは狼狽が目立つところに彼の人の良さを感じる。だから一層、驚かせてしまうことに申し訳なさがあった。
「御多忙と存じますので本日はお渡しだけ」
「恐れ入ります。お預かりさせていただきます」
小谷青年は戸惑いながらも封筒を受け取ってくれる。誠実さに敬意を払い、それ爆弾かもよ?と軽口は叩かないでおく。
「それと、僕の名刺です」
「これは私のです」
奥松さんも一緒に名刺を差し出す。そうすることで少しは信頼度が上がることを期待している。更なる混乱を招く可能性も大いにあるのは判っているのだけれど。奥松さんと話し合った結果、今回は手持ちの札を全て明かすことにした。
プリンターを個人で所有するのが一般的でないこの時代、名刺を印刷するには対価がそれなりにかかる。人を騙す為にそんな手の込んだことはしないだろうと小谷青年に想像してもらえれば御の字だ。相手が賢いことを見込んでの策略だった。
・・・言い方が悪かった。できるだけ不安を与えず信用してほしいだけなんだ、僕らは。
「あ、ありがとうございます。私も名刺はあるんですが、今ちょっと席に」
「次回お会いできた時で結構ですよ。急に申し訳ありませんでした、お仕事中に」
名刺なら既にもらっている。二枚もらっておいた。一枚は僕の保管用で、もう一枚は未来で偉い人になったあなたからの
まずは中身を読んでもらえなければ話を始められない。筆跡に心当たりがあったのか、小谷さんが付箋を見てこれでもかと目を見開く。
「中身の方もご確認のほど、よろしくお願い申し上げます」
僕らは深々と頭を下げる。
「え、これ」と声がした後で起き上がってみると、小谷青年も同じように―――僕ら以上かもしれない―――丁寧にお辞儀をしてくれていた。
「あのっ、連絡します!今日中に!」
「よろしくお願い致します。間に合えば急ぎませんので」
封筒には、未来で小谷次長と話した時に記録したノートのコピーが入っている。あとはご本人からの手紙。ルーズリーフにしておけば良かったと気が付いたのは「おまえら」に会い始めるようになってから間もなくだった。だがノート5冊入りセットを1ダース買ってしまった後だったので仕方ない。悔やまれたが社割にしてもらって返品とかありえない。ルーズリーフは使ったことがなくて全く思い浮かばなかったんだよね。
「もしも必要があれば、ご都合のよろしい時に名刺の電話番号までご連絡ください。今日の夜と明日の午前までは旅館に滞在しています」
旅館の名前と電話番号を書いたノーマルサイズの付箋も渡す。我ながら完璧な立ち回りだ。とは思う。が。
うーん
完璧すぎて逆に怪しいかもしれない。この時代なら警戒心なさすぎて全然イケると思ってはいるものの。
それでも小谷さんも含め、これから会う全ての依頼者—――過去の本人—――には中身を読んでもらいたい。
今回に関してはもし小谷さんに信じてもらえなくても、予告されたその日に起こることを阻止できればいいから勝手に動くことも可能だとは考えている。しかも奥松さんという協力者が現れて成功率は倍に上がった、最初から失敗するつもりは無いけどね。
それでも依頼主からせっかく預かったメッセージだ、どうしても届けたいじゃないか。できれば納得してもらった上で行動したい。
―――ふと届け屋さんの顔が過る。元気でいることだろう、そこは心配していなかった。僕のことを憶えてくれているだろうか。それを考えるとちょっと寂しくなってしまうよ。
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“あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の
ご応募いただいた作品は全て作中で登場させていただきますが、一番ダサいことを言った方が優勝です。
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