アイス仲間記念日
「お家近いんですか?」
「え、はい」
「アイスいっぱい買ってるから」
「あ!」
なんだか急に恥ずかしくなってしまった。僕のそんな気持ちになんて興味を持つ素振りもなく、彼女は「私も買う」と自販機に小銭を投入し始める。慣れた手つきで二つ買うと嬉しそうにハンカチで包み、刺繍が編み込まれたバッグにしまった。
アイスを買ったということは次の乗車予約は彼女も済んでいるのだろう。大抵の生徒は帰り際に次の予約をする。ただ、今の時期は予約が殺到していて一両日中の乗車となると難しい。僕のように指名か、優先予約ができるようになる申請でもしなければ二週間は先になってしまうそうだ。勿論どちらを選んでも追加料金がかかる。
「アイス仲間ですね」と彼女は言った。僕が「そうですね」と適当な返事をして自習室のドアをそっと閉めると、彼女がこっちを見上げてくる。
「徒歩ですよね?」
ご明察です。自習室を出てしまえば声の大きさを気にすることはなかった。
「じゃあ、帰りましょうか」
「はい。次の予約は取れましたか?」
僕はアイス仲間に月並みな質問をする。
「来週2回ずつ乗れます。登校日の学校があるみたいですよ」
「えっ、二時間連続で取れたんですか?」
そういうやりかたもあるのか。
一時間に乗車できるのは多くてもせいぜい十名だ。朝八時から昼休憩を挟んで十時間として全員が一日の上限である二時間を連続で予約しているとしたら、次の予約が二週間後になってしまうのも頷ける。
でも、そうか。僕は徒歩で数分の登校時間だから考えもしなかったことだが遠方から通っている生徒はそうするしかないのかもしれない。
「時間空いちゃうけど、私は家近いから帰れるの。遠い子は大変だよね」
「・・・そうですよね」
少子化が進んだせいか未来ではサービス精神が旺盛で、遠くても学校の前まで迎えに来てくれるし、帰りにコンビニに寄りたいと言えばコンビニの駐車場で待っていてくれる送迎バスが出ているなんて話したら彼女は驚くだろうか。
さっきまで授業を受けていた、今は空き時間で誰もいない教室の横を通り過ぎる。廊下にも自習用の机と椅子が並べられていた。誰かの悪戯か、はたまた友人同士で隣り合って座り元に戻さなかったのか障害物のように不規則に置かれていて、それを避けて歩いた。彼女もエスニックなロングスカートをヒラヒラさせながら華麗に歩を進める。赤い布が揺れるのが熱帯魚の鰭のようで涼し気だ。
乗車のキャンセル待ちをしている生徒へのアナウンスが聞こえてきて、ふと窓の外を見た。めでたく名前を呼ばれた生徒が駐車場へ向かう光景を想像する。今は16時だから、次の実習までに呼ばれなければその後は夜間料金が追加されてしまう。
コースを囲むように木々が並んでいるのが見えた。あれは桜なのだと、この時期に来る高校生は知ることがあるのだろうか。二階からは川も見える。時々小さい蟹が迷い込んできたのは未来での記憶だ。建物が邪魔している未来よりも川はよく見える。
「私は朝倉といいます」
「あっ。・・僕は片石です」
「片石さんは予約取れました?」
「はい。石田先生を指名したので、次の乗車は連絡待ちです」
もう電話が来ているかもしれない、とポケットに手を突っ込みそうになるがスマホは家に置いてあった。持っていても何処にもつながらないし落としたりしたら大変なことになる、未来とは違う意味で。
「・・・キャンセル待ちするより賢いですね」
キャンセル待ちなんて朝6時から並んでいるのだと、さっきとは別の受付嬢が言っていた。階段を降りながら「私は無理」と朝倉さんが溜息をつく。僕にも無理だ。
「片石さんは、高校生ではないよね?」
「中学生でもないですよ」
「あは、見えるかも」
見えるんだ?それもどうよ?
「いいなあ、若く見られるの」
「複雑です」
朝倉さんも若く見えますよ、とは言わないでおいた。なんだか口説いているみたいになることを懸念した。この時代に未来のフランクさはきっと通用しない。
受付の前を通り過ぎようかという時、さっきのソバージュお姉さんと目が合った。頭を下げようとすると、見てはいけないものでも見てしまったかのように全力で顔ごと
確かに、僕にでも解るくらい朝倉さんは魅力的な女性だ。玄関の自動ドアが開くと授業開始のチャイムが鳴った。
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引き続き“あのスレ”に居合わせた彼らを繋ぐ合言葉をひっそり募集します。チーム名みたいになると嬉しいですが、そうでなくても何でも結構ですので、ダサいのください。後半の大事な場面クライマックスで登場させたいので思い付いた方はコメント欄にご記入いただければ幸いです。
一番ダサいことを言った方が優勝です。それ以外の応募作も全て作中で登場させます。
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