第1章

帰郷

第4話

《紫苑side》



本格的に暑くなり、蝉のミンミンと泣く声が耳から離れない今日この頃。

17歳になった私は、約10年ぶりに生まれ育った町に帰るためにバイクを走らせている。



『懐かしいな。』



駐車場でバイクから降りてヘルメットを取ると、プラチナブロンドの髪が落ちる。

愛車のハンドル部分を撫でてから、チェーンを付けて歩き出す。

駐車場を出て、目的の大きな真新しいマンションに向かって歩く。

エントランスを抜けて、エレベーターに乗り込むと最上階のボタンを押し、与えられた部屋まで昇る。

カードキーと指紋認証で中に入ると、部屋の中を見渡す。

どうやら、必要な家具と段ボールはもう運んでくれたようだ。



『……うーん!』



広いリビングの床に寝っ転がってみると、目の前の真っ白な天井が目に入る。

目を閉じると、見慣れた暗闇。



10分だけ。

誘われるままに意識を手放した。



──────

────




――――「……、契約成立だ。」




欠伸をひとつと、軽く伸びをすると関節がポキポキと音を立てて軋む。

部屋は真っ暗で、大きな窓から街の明かりが見える。

どのくらい寝ていたんだろう。

時計を見ると、すでに2時間が経過していたことに目を見開く。



最悪だ。

こんな予定じゃなかった。

内容は覚えていないが、嫌な夢を見た気がする。



本当は来る途中で買った模様替えの品で、部屋を自分の好みにしたかったのに。

こんな大きな部屋だと、何時間かかるんだ…。

何もしていないのに、体が重い。



パシッと乾いた音が静かな空間に響かせて、自分の両頬を思いっきり叩くと、気合いを入れ直す。



『……よしっ!』



腕捲りをして、とにかくリビングだけでも終わらせようと、意気込んだ時。



初期設定のまま変えていない着信音が鳴り響く。

誰からかなんて見ないで出てしまったのがいけなかった。



「てめぇ今どこにいる。」



低く地を這う声が耳に入った瞬間、電話を切る。

冷や汗が出て、鳥肌が立った。

それと同時に、心臓をぎゅっと掴まれた感覚に陥る。

息苦しさを覚えて、数回深呼吸を繰り返す。



そうだ、何も聞いていないことにしよう。

着信なんてなかった。



無理矢理自分に言い聞かせて、携帯をマナーモードにする。

それから、段ボールからキッチン用具を出し、棚に仕舞っていく。

一人暮らしだから、お皿も多くない。

段ボールを畳むと、買ってきた袋に手を伸ばす。



今日はお腹すいてないからご飯はいいや。

食材を冷蔵庫に仕舞い、リビングに戻ると、携帯が震えている。

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